ビスホスホネート(以下BP)は、骨粗鬆症治療や癌の骨転移治療に用いられている。その一方で骨転移に関わらずがん患者の予後改善への寄与が示唆されている。骨への長期蓄積は周知の事であるが、軟組織臓器において直接的な抗がん効果を発揮することは明らかにされていない。この点に着目しBPによるがん患者の予後改善効果は、骨環境を抑制することで発揮されている可能性について研究を行った。 骨には様々なサイトカインが豊富に含まれ、骨吸収が生じるとそのサイトカインは骨髄中に放出されることが明らかになっているが、なかでもTGF-βは転移促進プログラムである上皮間葉転換(EMT)を誘導することが示されている。そのため本研究においては、BPが骨吸収抑制作用によって骨髄中におけるがんのEMTを抑制する可能性について検討した。まずEMTが骨髄中で促進されるか否かについてinvivoで検討した。ヒト乳がん細胞MCF7を乳腺部皮下ならびに脛骨骨髄中に同時接種し腫瘍増大後EMT促進因子Snailの発現を乳腺部腫瘍と比較しながら測定した。その結果、乳腺部腫瘍に比較して骨髄内腫瘍においてSnail発現が増加し、上皮マーカーE-cadherinの発現が減少した。この結果より骨髄はがん細胞のEMTに好都合な環境であることが示唆された。またBPの培養細胞への添加がSnailをユビキチンプロテアソーム系での分解を促進するといった直接的なEMT抑制効果を有することも見出しており、そのメカニズムはSnailに直接的に結合しそのユビキチン化を阻害するUSP45の活性を抑制することが生化学的解析によって示された。さらに、USP45の酵素活性抑制が、invivoにおいて転移抑制効果を示した事から、創薬のターゲットとなる可能性が示唆されている。本研究によりUSP45の生物学的意義ならびに構造解析への足がかりとなった。
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