研究実績の概要 |
骨格性下顎後退症患者に対して行う顎矯正手術後の進行性下顎頭吸収が注目されてきた。その原因として前方移動量が多いことや関節円板の位置異常, さらにはエストロゲンの関連等が指摘されている。本研究は, ウサギ顎関節に対して機械的伸展ストレスおよび機械的圧縮ストレスを与え, 下顎頭の形態にどのような影響を及ぼすのかを検討した。 1回0.25mmを1日2回の割合で7日間, 計3.5mmの前方延長および後方延長を行った。前方延長したものをA群、後方延長したものをB群とした。形態学的評価をマイクロCTで行い, 組織学的評価をHE染色, 酒石酸抵抗性酸性フォスファターゼ(TRAP)染色, エラスチカ・マッソン染色, アルシアン・トルイジン・ブルー染色を行った。Ⅰ型・Ⅱ型コラーゲンを用いた免疫組織化学的評価を行った。 マイクロCTにて, 各週ともA群で下顎頭の吸収、特に下顎頭前面部において有意に認めた。特に延長終了後2週目, 4週目で顕著に認められた。HE染色において骨の吸収 がみられた部分では, TRAP陽性を示す破骨細胞が多く存在していた。さらにエラスチカ・マッソン染色で骨の内層に骨芽細胞が多くみられ, 表層の膠原線維は平滑だった。またA群の延長終了後, 2週目・4週目では軟骨層の破壊が顕著に確認できた。軟骨組織の減少に伴い軟骨細胞外基質のⅡ型コラーゲンが減少していた。 下顎骨を前方延長することで顎関節部では下顎頭前面と関節円板との過度なストレス、いわゆる機械的圧縮ストレスが生じていることが考えられた。一方で下顎骨を後方延長することで顎関節部では機械的伸展ストレスが生じており、ウサギ顎関節は過度な機械的伸展ストレスよりも機械的圧縮ストレスに対して許容力が小さいことが考えられた。さらに下顎頭吸収には軟骨細胞の関与の可能性が示唆され、軟骨組織に関する詳細な検討が必要であることが示唆された。
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