研究概要 |
本研究課題では、内部に根管(歯髄腔)が含まれている歯冠部象牙質および髄床底部象牙質を光干渉断層画像装置(以下OCT)で観察する。これにより、髄腔開拡時や根管探索時により正確かつ確実な診断および処置を行うことが可能かどうかを検討することである。 根管治療において、未処置の根管が存在すると感染壊死歯髄の残存・死腔の存在により予後に悪影響を与えると考えられる。上顎大臼歯の第4根管は抜去歯を用いた研究において上顎第一大臼歯で55~79.8%存在すると報告されている、しかし臨床的には歯科用実体顕微鏡(以下MS)を用いても33.1~57.9%しか発見できないと報告されている。OCTを用いて観察・処置を行うことで第4根管を見逃さずに治療を施行することが可能となれば根管治療の成功率も上がると考えられる。 上顎大臼歯の髄床底をOCT(Santec OCT-2000®, Santec, 小牧)にて観察し、根管口付近の形態評価を行った。ヒト抜去上顎大臼歯40本を髄腔開拡、3根管の上部形成まで行った状態で、第4根管(近心頬側第2根管)の観察を行った。被験歯は、予めマイクロフォーカスX線CT(inspeXio SMX100CT®, 島津製作所, 京都)撮像を行い、非破壊的かつ正確に第4根管の有無の確定を行った。3人の評価者が肉眼・歯科用実体顕微鏡(OPMI® pico, Carl Zeiss, ドイツ)・OCTを用いて第4根管の有無についてスコア化し、統計学的解析を行った。その結果、OCTを用いる事で第4根管の検出率が上がること、観察者間の一致度も高く、客観的な評価が可能であることが判明した。また、OCTとEr:YAGレーザーを併用し、OCTで髄腔を観察しながらMS下でEr:YAGレーザーを用いて歯質を切削し、髄腔開拡を行うことが可能であることを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題において、初年度の目標としていたOCTを用いた根管口観察に関する検討は想定していた通りで、他の診断方法よりも有用であることが示された。本研究課題第2年度は当初の申請通りの以下について検討を行う。 実験には髄腔開拡モデルとしてヒト抜去下顎前歯30本を、根管探索モデルとして上顎大臼歯30本を用いる。正確な歯種の鑑別は困難ではあるが、第3大臼歯は可及的に除外する。被験歯は修復がなされていないものと1級修復がなされているもので明らかな実質欠損が無いものを選択する。予め、被験歯をマイクロX線CTにて撮像を行い、下顎前歯は切端から歯髄腔までの長さの測定を行う。上顎大臼歯は近心頬側根の根管口数と根管口形態の評価を行う。下顎前歯は歯髄腔までの距離が1㎜程度になるように歯冠を歯軸に垂直に低速切断機(Isomet®, Buehler, アメリカ)を用いて切断する。上顎大臼歯はダイヤモンドポイントをエアタービンに装着し、歯科用実体顕微鏡(以下MS)下で通法通り髄腔開拡・天蓋除去を行う。各歯種を10本ずつ3群に分け、OCT群はOCTで象牙質および歯髄腔や根管を観察しながら、超音波チップ・レーザー照射チップを用いて、象牙質の切削を行う。肉眼群は肉眼で象牙質を観察しながら、超音波チップ・レーザー照射チップを用いて、象牙質の切削を行う。MS群はMSで象牙質を観察しながら、超音波チップ・レーザー照射チップを用いて、象牙質の切削を行う。 すべての群で下顎前歯は露髄するまで、上顎大臼歯は近心頬側第2根管の有無の判定をするまで切削を行う。術者は一人とし、事前にOCT観察の訓練、レーザーによる象牙質切削の訓練を行う。各群の切削時間の測定を行う。また、切削後にマイクロCT撮影を行い、切削方向・切削量・穿孔の有無などの評価を行い、近心頬側第2根管の有無の判定の正確さも含めて、各群間の比較検討を行う。
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