“歯科基礎医学的研究”では、実験動物として糖尿病モデルのラットを主に用いて、実験的歯髄炎を誘発し、歯髄神経の持続的興奮に伴う中枢神経系内の動態を解析すために生理学的解析・免疫組織学的解析・遺伝子発現解析(NMDAR、MK801、p38MAPK等)を行った。具体的には、中枢神経系内の歯髄駆動ニューロンとその周囲に存在するグリア細胞(ミクログリアやアストロサイトなど)の相互作用を解析をした(GFAP、p38MAPK、P2X4受容体、IBA-1、MHCclassⅡ、CD80、Toll様受容体等)。さらに生体警告系である痛みを難治性疼痛へと移行させる重要な役割を担っていることが解明されてきたミクログリアに注目し、これまで通り、疾患モデルではない通常のラットを用いて、活性化したミクログリアに特異的に発現増加する複数の因子についても解析を行った。また、“臨床歯科医学的研究”では、歯髄疾患、特に不可逆性歯髄炎や根尖性歯周炎に罹患していると診断された患者で顎顔面領域に難治性の痛みを訴える者について、その原因の解明並びに痛みの除去に必要とした治療法の種類と治療期間、さらには疼痛消失前後における患者心理の変化(Visual Analogue Scale、Numerical Rating Scale等を使用)、患者の呈する症状の変化と診療行為との関係を調査し、必要に応じて、歯科用CBCT撮像を行い臨床的総合的に分析した。 しかしまだ、歯髄疾患に伴う痛みの中枢細胞間の相互作用については十分に解明されているとはいえず、引き続き、難治性疼痛の病態を詳細に分析し、ひいては有効な治療方法を解明する必要がある。
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