本研究は、象牙質知覚過敏抑制材で処理した象牙質に対する口腔内細菌の付着性に関する研究である。最近の象牙質知覚過敏抑制材の多くは、薄層被膜を形成することにより象牙細管開口部を封鎖し知覚過敏を抑制する材料が主流である。しかし、象牙質表層へのポリマーの沈着やモノマーが浸透して被膜が形成されることから、象牙質表層の物理化学的性状に変化をきたすことが考えられる。既存の代表的な象牙質知覚過敏抑制材には、象牙質表面に高分子被膜を形成するか、あるいは親水性モノマーが象牙質表層に浸透して接着における樹脂含浸層のような被膜を形成すると考えられる。もちろんいずれも前もって酸処理などは行わずそのまま象牙質表面に塗布することがメーカー指示されているため、接着修復の際のような強固な樹脂含浸層は形成されているとは考え難い。しかし、これらの薬剤を塗布した象牙質はいずれも表面に被膜が形成され、表面の物理化学的性状は大きく変化すると考えられ、このことは、プラーク形成の発端である口腔内細菌の初期付着にも何らかの影響を与えることが考えられる。したがって、知覚過敏症状は抑制できても、細菌付着性が増大し、プラークの蓄積をきたして歯肉の炎症を惹起するようであるなら、これらは優れた材料であるとは言い難い。そこで本研究では、既存の代表的な象牙質知覚過敏抑制材を用いてプラーク形成の発端である口腔内細菌の初期付着について比較検討を行った。その結果、本研究の範囲内においては象牙質表面に高分子被膜を形成するタイプのほうが、親水性モノマーが象牙質表層に浸透して接着における樹脂含浸層のような被膜を形成するタイプに比べて口腔内細菌の初期付着が少ない傾向にあった。
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