申請者はin vitro研究結果からTenascin-C(TN-C)が歯髄幹細胞の分化及び増殖を促進し、硬組織形成能を有する細胞へと分化が亢進されることを明らかにし報告した。そこでin vivo研究によりTN-Cが歯髄断髄面で硬組織形成に作用するかを明らかにするため、ラット両側第一臼歯部を露髄させ、Recombinant TN-C(15μg/ml)をコートしたCollagen spongeを左側に填入した方を実験群とし、対照群は右側に非コートしたものを填入し、ラット術後の直後、1日、5日、1週間、1か月後に屠殺した後、上顎骨を摘出し組織標本を作製し分析した。また屠殺直前にはμCTで上顎第一大臼歯部を撮影した。1週間後では対照群において窩洞直下に肉芽組織と好中球の著明な浸潤がみられるのに対し実験群では窩洞下の象牙芽細胞様細胞の配列と線維の増生が認められ、1か月後では対照群では窩洞周囲に第三象牙質の形成がみられ実験群では窩洞周囲の第三象牙質の形成と髄壁内の石灰化の亢進が観察された。免疫組織化学染色法では1週間後で実験群の窩洞直下にNestin陽性細胞の出現および髄壁周囲の歯髄にOsteocalcinの陽性が観察された。μCT画像では1か月後に対照群と実験群において窩洞周囲に石灰化像が観察された。またIn vitro実験ではTN-CをコートしたCollagen spongeを実験群、非コートしたものを対照群として、それぞれに培養歯髄細胞を播種し1週間後の分化を定量的RT-PCR法で検索した結果、Notch1は実験群が対照群に比べて高く発現し、ALPは実験群と対照群で同等の発現を示した。これらの結果からTN-Cは歯髄の硬組織能を促進し、TN-CコートしたCollagen spongeは生体親和性の高い覆罩材になりうると考えられた。今後、さらに硬組織形成能の評価を検討する予定である。
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