界面科学的な歯質接着システムの化学的接着機構の解明の一環として,アドヒーシブの表層低重合層がコンポジットレジンとの接着性に及ぼす影響の検討を行った。その結果,歯質接着システムの接着強さは,表層低重合層の有無,接着システムおよびコンポジットレジンの種類に影響を受けた。歯質接着システムの接着の獲得に表層低重合層は必須とされるものの,そこに残留する機能性モノマーの多寡によってはその後に填塞されるコンポジットレジンとの接着性に影響を及ぼすとされている。そのため,歯質接着システムの表層低重合層における残留機能性モノマーの多寡を,界面科学的な観点からアドヒーシブ表面の電子供与性を指標として検討した。その結果,アドヒーシブの表層低重合層における電子供与性は,いずれの接着システムにおいてもこれを除去したものと比較して有意に高い値を示した。このように,アドヒーシブ表層の低重合層は電子供与性が高いことに加えて,界面拡散層として機能することで,コンポジットレジンとの接着性を向上させるものと考えられた。一方,歯質接着システムの電子供与性は,製品の違いにより異なり,接着システムの種類によってはコンポジットレジンとの接着性に影響を及ぼすとされている。そこで,歯質接着システムの違いがコンポジットレジンとの接着性に及ぼす影響について検討し,化学重合型レジンとの接着において,アドヒーシブの電子供与性は影響を及ぼすことが明らかとなった。これは酸性機能性モノマー由来の水素イオンがレジンペースト中の重合開始材の一つであるアミンと反応することによって電荷イオン錯体が形成され,重合硬化反応を阻害した可能性が考えられた。このように,界面科学的な歯質接着システムの化学的接着機構の検討は,機能性モノマー由来の還元剤成分を電子供与性を指標として評価することが可能であり,これらの接着機構の評価において重要であることが示された。
|