義歯床用材料として広く用いられる歯科用アクリルレジンは、歯科用材料の中で優れた耐候性を持つが、義歯の長期使用により物性の低下や材料表面の粗造化など材料そのものに経年的な劣化が起こる。このような劣化を起こした材料では、表面のみならず内部にも微生物が繁殖し、微生物叢(バイオフィルム)を形成する。そのため、義歯そのものが義歯使用者や免疫機能低下者の口臭や日和見感染症、誤嚥性肺炎などの重篤な呼吸器感染症を発症する病原性因子になる。 これまでアクリルレジンならびに軟性アクリルレジンの試験片表面への初期付着量の測定をしてきた。初期付着後のバイオフィルムの熟成、とくに口腔内細菌による実験的なバイオフィルム形成は困難とされる。そこで、申請者は、口腔内細菌の付着強度を検討するために滅菌試料にStreptococcus mutans菌を用いて人工バイオフィルムの熟成を試みた。試料表面には予めフィルター滅菌後の唾液にて表面処理をし、12~24時間4℃にてインキュベートした。S.mutansをBHI培地にて培養後、その培養液を同じBHI培地にて10倍希釈し、スクロースを添加して、攪拌後、37℃好気条件下にてインキュベートした。その結果、膜状のバイオフィルムは形成されるもののその厚みは不十分で、熟成にいたるには、その形成されたバイオフィルムに対しさらにバイオフィルムを重ねて作成する必要があることが分かった。
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