研究実績の概要 |
義歯装着者にとって,義歯の衛生管理は口腔の健康を保つ上で重要である.しかし,義歯材料として最もよく使われている義歯床用アクリルレジンには, 特有の微生物の付着を始め汚染や劣化等改善すべき課題が未だ残されている. 特に義歯の汚染は,義歯装着者の口腔内環境を悪化させるだけでなく,誤嚥性肺炎や日和見感染等全身状態にまで影響を及ぼす可能性があり,早急に解決すべき問題の一つである.そこで,すでに医療器具に使用されている化学蒸着法 (CVD)によるコーティング技術を義歯にも応用し,「汚れない義歯」の作製を検討することとした.本研究の目的は,化学蒸着法(CVD)による義歯床用材料の表面改質について基礎的評価を行うことである. 最初に,義歯床用材料として最も一般的な義歯床用加熱重合レジン(PMMA)にて作製した試験片に対し,適切な前処理方法や皮膜厚さについて検討を行った.その結果, 本研究ではCVDによるdiX-Cの蒸着が可能であり,コーティング皮膜は約5μmであった.皮膜は無職透明であり,コーティング後の試験片は肉眼観察により滑沢な表面を呈し,PMMAの変色も見られなかった.コーティングされたPMMA試験片表面の接触角を測定したところ,コーティング前と比較して約30%の増加が見られ,表面の疎水性が高くなったことが示唆された. また,義歯への付着が問題となっている代表的な口腔内常在菌であるカンジダ菌を用い,CVD処理を施した試験片におけるカンジダバイオフィルム抑制効果を評価した.その結果,CVD処理試験片におけるカンジダ菌の生存率は,未処理の試験片と比較し約50%に低下した.さらにCVD試験片表面に形成されたカンジダバイオフィルムの付着性が弱くなり,剥離しやすい特徴に変化したことが観察された. 以上より,CVDによる義歯床用アクリルレジンの表面改質は可能であることが示唆された.
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