咬合異常感患者の治療を行い資料を引き続き収集し分析した。客観的に問題のない補綴物が装着されていても咬合の違和感を訴える患者の多くは数年から数十年の病歴を有しており、全身的な症状の合併を訴えた。歯科から紹介されて精神科の受診をした患者もいたが精神疾患の診断を受けたものは少なかった。三環系抗うつ薬や向精神薬による薬物療法が奏功して補綴治療を終えることができた患者もいたがその割合は少なく、治療終了した患者も完全に訴えが消失したわけではなかった。三環系抗うつ薬で症状をコントロールし可撤性義歯を装着した一人の患者は、日常生活の支障はなくなったが定期的な義歯の調整を強く希望して現在に至るまで来院している。治療終了のタイミングと患者への説明を考慮する必要がある。舌痛症などの痛みを主訴とする疾患と違い、症状の消失を得ることは困難であった。また、全部床義歯患者の補綴治療予後が必ずしも義歯の質によらないとの報告がある。客観的に問題のない義歯であっても噛み合わせの違和感や疼痛を訴えるいわゆる咬合異常感や義歯不耐症の患者が一定数存在する。これは疼痛閾値などの問題だけでなく、心理学的な問題が関与している可能性がある。無歯顎患者の神経症傾向と口腔関連QOLの内部構造の関連をSEMを用いて視覚的にモデルを作成し検討したところ、因子間の構造に大きな違いはないが痛みに関する一部の尺度に違いがあることが推測された。病態把握の一つの手がかりになると考え引き続き解析を続けている。
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