筋筋膜痛を発症している咀嚼筋は,臨床的に硬くこわばった感触であることが知られているが,これは触診による術者の感覚を主観的に述べたものであり,咀嚼筋痛患者の咀嚼筋の硬さは客観的には未だに明らかになっていない.咀嚼筋痛患者において咀嚼筋の硬さを客観的に評価する方法を確立することで,咀嚼筋痛患者の診断や治療効果の定量的な解析が可能となる. せん断弾性波エラストグラフィは,せん断弾性波伝搬速度 (Vs) を使用して硬さを測定する近年開発された手法である.せん断弾性波エラストグラフィは対象部位をVs (m/s) で測定できるため,組織の硬さを定量化できる.この技術は慢性C型肝炎患者における肝線維化の重症度を予測するのに近年世界的に用いられているが,咀嚼筋痛患者の測定は未だ行われておらず,その有用性も明らかになっていない.そこで本研究の目的は、せん断弾性波エラストグラフィを用いて咀嚼筋痛患者の咀嚼筋の硬さを定量評価することである. せん断弾性波エラストグラフィを用いて,被験者の咬筋のVsを測定したところ,Group IaとGroup IbのVsは健常者群のVsよりも有意に大きく,咬筋の硬さはGroup IaとGroup Ibでは健常な被験者よりも約2倍固かった.Vsに影響を与えている因子として,疼痛強度が明らかになった.また,Vsは疼痛強度とかなり高い相関があった . せん断弾性波エラストグラフィを用いて咬筋の硬さ測定したところ,RDC/TMD Group I患者群(咀嚼筋痛障害)はおよそ4 kPaであり,健常者群の約2倍固かった.被験者を多くした更なる調査が必要である.
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