本研究では生活習慣病の1つである糖尿病と咀嚼との関連について検討を行ってきた。モデル動物を用い、固形飼料を給餌させる咀嚼群と液体飼料を給餌させる非咀嚼群を設定した場合、給餌開始から30分後、および90分後で咀嚼群の血中GLP-1濃度が上昇することが明らかとなった。さらに迷走神経を遮断したところこれらの有意差は消失した。以上のことから咀嚼は迷走神経を介し、GLP-1の分泌を促進することが明らかとなった。 平成27年度は咀嚼によるGLP-1分泌促進の効果が持続した場合、どのような変化が現れるのかをGLP-1のβ-細胞保護作用に注目して検討を行った。GLP-1はβ-細胞からのインスリン分泌を促進するのみならず、β-細胞の増殖を促進し、アポトーシスを抑制することが報告されている。モデル動物を用い、固形飼料を給餌させる咀嚼群と液体飼料を給餌させる非咀嚼群を設定し、3か月間決められた形態の飼料によって飼育した。なお固形飼料と液体飼料は同等の栄養成分を含有するよう調整を行っている。飼育から3カ月後、血液を採取し、血清中のGLP-1濃度を測定した。さらに、モデル動物を安楽死させ、膵臓を摘出、固定した後、薄切切片を作製し、アルデヒドフクシン染色にてβ-細胞を染色した。その結果、咀嚼群の血中GLP-1濃度は非咀嚼群に比較して有意に高い値を示した。また、咀嚼群は非咀嚼群に比較して、ランゲルハンス島内に占めるβ-細胞数の割合が高い傾向を示した。以上の結果から、咀嚼を長期間行うことは咀嚼をしなかった場合に比較して、GLP-1を介しての膵臓のβ-細胞の保護および増殖に有効な作用を持つことが示唆された。
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