本格的な高齢社会の到来により、口腔感覚機能や嚥下機能の低下した高齢者や摂食嚥下障害患者の数も増加している。そこで本研究においては、被験食品の性状の違いが摂食嚥下の遂行にどのような変化を及ぼすのかを検討した。 本研究では、食品の性状の違いがヒトの摂食嚥下時にどのような生体変化を及ぼすのかを検討するために、前頭前野に着目し近赤外光トポグラフィー(NIRS)を利用し、サンプル食品摂食嚥下時の前頭皮質における血流量を測定した。サンプルは、基材としたトロミ調整食品に甘味および香料を加え、4種類のサンプル(味無香無・味無香有・味有香無・味有香有の4条件)を作製した。被験者は、健常高齢者7名および過去に脳に障害の既往がある有病高齢者5名を対象とし測定を行った。測定のタイミングプロトコルは(前レスト20秒・タスク60秒・後レスト20秒)とし、3回計測後加算平均した。分析は、酸化Hbの変化量について行った。その結果、各被験者群の酸化Hb変化量の継時的変化については、健常者群において全条件下で類似したパターンが確認されたが、有病者群においては、類似したパターンは確認されなかった。また、各サンプル条件における各被験者群でのタスク時酸化Hb濃度変化平均を算出後、類似した反応を示すチャンネルをWard法によるクラスタ解析によって分類した結果、健常者群においては、3つのクラスターに分類されたが、有病者群においては類似した反応を示すチャンネルが散在し典型的なクラスターに分類されなかった。その後、健常者で得られた3クラスターからそれぞれ4チャンネルを代表値として選択し両被験者群間で比較した結果、被験者群間で明らかな差を示す領域が特定された。このように、被験者群間で特徴が見いだせたことから、中枢機能局在の客観化が、障害を持つ患者の診断や治療の一助となる可能性が考えられる。
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