入眠に伴いヒトの上気道拡張筋の活動は低下し、舌は咽頭方向へ沈下する。しかし、覚醒時の舌の位置を維持することができれば睡眠中の無呼吸発現を防止できるかもしれない。本研究の目的は、この仮説を検証し、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(Obstructive Sleep Apnea Syndrome; OSAS)患者に対し、良好な治療成績とコンプライアンス(患者が治療者の指示通りに治療装置を使用できる割合)の向上に貢献でき、かつ、副作用の少ない治療法を新規に考案し、その有効性を証明することである。本研究のプロトコールは神経研究所倫理委員会によって承認され、書面により研究協力の得られたOSAS患者を対象に、これまでに予備実験を重ねてきた。新規装置は口腔部分と陰圧発生装置、および両者をつなぐチューブから構成される。口腔部分の基本構造を企業研究者のアドバイスを受けつつ決定し、その妥当性についての基礎的検討を行った。OSAS患者に対し、就寝時に新規装置装着を指示し、装置使用1-2ヶ月前後での呼吸障害指数(Respiratory Disturbance Index; RDI)の変化を簡易型無呼吸計測装置を用いて評価した結果、新規装置は有意にRDIを減少させた。この予備実験により、現在の口腔部分基本構造は維持しつつも、その材質や大きさを変えることによって、より使用感の優れるOSAS治療装置となる可能性が明らかとなった。さらに一連の結果を踏まえ、シリコン系素材を用いて口腔部分を作製し、試験的利用を試みた。シリコン系素材を用いることによって装置装着感が格段に向上したうえに、より弱い陰圧での舌位置維持が可能となった。しかしながら、同素材は成形が困難であり実用化に向けたコスト的課題も明らかとなった。
|