研究課題
若手研究(B)
これまで、培養用プレート下にセットした励磁コイルによるパルス磁場刺激(中心部磁束密度700mT、12時間/日)が、MEK-ERK1/2経路を活性化させ、神経分化モデルのラット由来PC12細胞の神経細胞分化を誘導することを示したが、コイルを用いたパルス磁場によるMEK-ERK1/2経路の活性化機構は依然不明点が多い。本年度研究では、パルス磁場刺激をPC12細胞等の神経分化モデル細胞に作用させ、パルス磁場や励磁コイル由来の温熱作用による神経突起伸長の調節機構について、様々な検討を実施した。特に励磁コイルまたは加熱プレートを用い、下記方法により外部環境からの温熱作用がPC12細胞の増殖や神経細胞分化に与える影響を検討し、以下の成果を得た。[方法]培養プレート内の培地温度と励磁コイル又は加熱プレートの表面温度との関係を評価した。培養プレート中の培地は、神経細胞分化誘導に使用する強度のパルス磁場刺激操作か、様々な温度に設定した加熱プレートによる加温操作を最大1日12時間受けた。その後、顕微鏡により細胞増殖や神経細胞分化度を評価した。[成果]コイル操作時のコイル表面温度上昇による培地温度上昇は、最大約1℃だった。この培地温度上昇は加熱プレートの表面温度を39.5℃に設定することでほぼ再現できた。加熱プレートにて再現した温度刺激では、PC12細胞の増殖曲線には影響を及ぼさないが、神経突起誘導を誘導した。しかし温熱依存性神経突起形成率は、励磁コイル依存性のそれに比べて有意に小さかった。温熱作用によるPC12細胞神経細胞分化もERK経路の抑制により阻害された。これらの結果は、精密な温熱刺激が神経突起を誘導できることと、誘導されたパルス磁場に加え、励磁コイルから同時に発生し細胞に作用する温熱もPC12細胞におけるMEK-ERK1/2経路依存性神経突起形成の誘導に協調的に貢献することを示唆する。
2: おおむね順調に進展している
超高齢社会を迎えた日本では、脳卒中の後遺症や脊髄損傷の四肢麻痺に苦しむ患者数は200万人を超え、脳や脊髄損傷後の運動機能回復治療への需要は大きくなるばかりである。近年、脳を直接刺激する経頭蓋磁気刺激が脳卒中片麻痺の治療手段として有望視されている。しかしながら、パルス磁場刺激依存性の神経細胞分化誘導機構は不明点が多く、その分子的基盤およびその配向制御法を解明することはパルス磁気を用いた神経回路再編・再生のためのシステムの開発に大きく寄与するもの考えられる。本年度研究では、特にパルス磁場刺激時の励磁コイル由来の温熱刺激がPC12細胞のパルス磁場刺激依存性神経細胞分化誘導に与える影響やそのメカニズムを一部解明した。この結果を受け、今後はさらに予定している他の項目の検討に入る予定である。
今後の研究の推進方策として、平成25年度に実施した実験により得られた成果を踏まえ、実験系におけるコイル表面温度制御能をさらに改善しつつ、以下の検討を実施する。(1) パルス磁気刺激や励磁コイル由来のジュール熱刺激によるMEK-ERK1/2経路の活性化機構を検討する。特にMEK-ERK1/2経路上流のプロテオーム解析を採用し網羅的な検討を実施する。この際、パルス刺激の加え方を、単パルスから2連パルス刺激に変えたり、照射時間をより長くすること等により、神経細胞分化効率を最大化する条件を検討する。(2) (1)の結果を踏まえ、SH-SY5Y細胞において共通のメカニズムで神経細胞分化が誘導されるか否かを明らかにする。(3) 一方向性のパルス磁場刺激が神経突起の配向に与える影響の検討を行う。パルス磁場の磁束方向を、培養プレートの全細胞に一方向性かつ平行に作用させるよう開発した細胞刺激用励磁空芯コイルを用い、 各種神経様細胞が神経突起の伸長のみならず、配向について制御できるか否かを検討する。また静磁場による配向制御についても並行して検討する。こうした検討を積み重ねることにより、連続パルス磁気刺激依存的な神経突起形成誘導法の分子的基盤および配向制御法を明らかにし、もってパルス磁気を用いた神経回路再編・再編のためのシステムの開発に寄与する。
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