現在のインプラント治療のトラブルの大部分を占めるインプラント歯周炎や上部構造の破断は、歯の咬合力が分散せずに歯槽骨やインプラント体に直接伝わることが発症の一因と考えられている。天然歯では歯と歯槽骨の間に歯根膜が存在し、咬合力を分散させる役割を担っている。そのため、歯根膜再生型インプラントの開発はインプラント治療の予後の改善につながると考えている。 本研究課題ではインプラント素材表面での歯根膜細胞の培養実験や生体への移植実験を通して、歯根膜細胞の性質や分化能を解析し、歯根膜再生型インプラントの開発への可能性を検証することを目的として研究を進めている。昨年度は、1.セリア系ジルコニアへの石灰化誘導実験、2.糖尿病ラット脛骨へのチタンインプラント移植への神経成長因子(NGF)の関与、3.ラットから採取した歯根膜細胞への各種生理活性物質の効果の検証などを行った。1.の材料の実験、2.の糖尿病ラットの実験では良好な結果が得られ学術誌に報告した。3.のラット歯根膜細胞の実験ではいくつかの生理活性物質によって、骨系細胞への分化マーカーであるアルカリフォスファターゼ(ALP)の上昇がみられたが、石灰化には至らなかった。 そこで、今年度は歯根膜と隣接している歯の石灰化機構に関与していると考えられている象牙質シアロリンタンパク質(DSPP)に注目し研究を進めた。ブタのDSPP遺伝子は2つのバリアントが存在していることが知られており、歯胚組織中のバリアントの分布について実験を行った。その結果、硬組織である象牙質に隣接している象牙芽細胞と、その内側の歯髄細胞では発現しているDSPP遺伝子バリアントの発現量に大きな違いがあることが明らかとなり、DSPP遺伝子バリアントと歯の石灰化の関与が示唆された。また、DSPP遺伝子が象牙芽細胞への分化マーカーとして有用であることを示した。
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