口腔癌などによって生じた骨欠損修復は、歯科における重要な検討課題となっている。特に、広域骨欠損に対し、効果的な治療法の確立ができれば、患者の生活の質的向上へ大きく寄与できる。広域骨欠損の治療では、血管網の再構築が困難であり、骨再生担体または欠損中心部への迅速な栄養・酸素供給技術の確立が必須となる。この課題を克服するため、生体外で血管網を張り巡らせた骨様組織を構築し、その後移植を行う先駆的な試みが注目を集めている。しかしながら、これまでの報告では、未だ生体外で十分な血管網や骨組織の両方を構築するには至っていない。同目的を達成するためには、複数細胞を「生体外の同一空間内で同時に」それぞれ別目的へと制御する技術が必要となるものの、未だ確立されていない。本申請は、申請者らが開発を進めている複合薬創生技術(FSC:情報工学と生物学的評価の融合技術)を駆使し、多目的培地開発の基盤を築く事を目的とする。特に、FSCを用いて数限りない組み合わせが考え得る複数の培地成分を迅速に最適化し、生体外で血管網の構築、かつ骨芽細胞分化を同時に促す二目的培地を創製する。H27年度は、ヒト血管内皮細胞およびヒト間葉系幹細胞(MSC)の両細胞の増殖に適した培地条件を明らかにしたとともに、複数の濃度を持つ7種類の成長因子がそれぞれの細胞群に及ぼす影響を解析した。またFSCで用いるアルゴリズムの調整を完了した。MSCは分化速度が遅く培養日数が長くかかることから、費用対効果、作業対効果に課題があった。従って、FSCに先んじて新たに脱分化脂肪細胞(DFAT細胞)の利用を検討し、同細胞の多分化能(骨芽細胞分化能を含む)を解析して、2本の論文としてまとめた。DFAT細胞は一定条件下でMSCより迅速に骨芽細胞分化を示す事を明らかにし、本プロジェクトへの有望な細胞ソースであることを確認した。
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