われわれは、口腔扁平上皮癌の臨床標本からFNA(fine-needle aspiration)を用いて採取した癌細胞を対象にFISH法(fluorescence in situ hybridization)を行うFNA-FISH法により、これまでCyclin D1などの遺伝子に着目して分子遺伝学的解析を行い、予後などの臨床情報との相関性を示してきた。 その経験を活かし、FNA-FISH法を用いた特定の染色体領域のゲノムコピー数異常の解析にとどまらず、SNP(single-nucleotide polymorphism)マイクロアレイを用いた全ゲノムコピー数の網羅的解析を行った。具体的には頸部リンパ節転移を生じた舌扁平上皮癌症例における原発巣および転移巣それぞれの臨床標本からゲノムDNAを抽出し、高密度のSNPマイクロアレイであるOncoScan FFPE Assay (Affymetrix)を用いて、ゲノムコピー数変異(CNA)およびコピー数変異のないヘテロ接合性消失(CN-LOH)に関して原発巣と転移巣間での相同性および相違性を評価した。 その結果、20q11.2の増幅は統計学的に有意に転移巣特異的な変異であることが示され、転移過程への大きな関与が示唆された。この解析結果を検証するために、別コホートにおいて20q11.2上の候補遺伝子の発現を免疫組織染色にて評価した。その結果、E2F1の発現が原発巣に比べ転移巣で有意に亢進がみられた。 本研究のように網羅的に全ゲノムコピー数解析を行って候補遺伝子を絞り込んだ上で、次のステップとしてより多数の臨床標本を対象にFNA-FISH法を用いて解析を行うことで、臨床応用が可能になると期待される。
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