研究実績の概要 |
口腔癌において後発頸部リンパ節転移の生じるまでの期間は症例により様々であるため、経過観察期間や予防的化学療法の長期化、医療コストの増大の一因となっている。本研究の目的は、一次治療終了後に長期間経過してから生じる頸部リンパ節転移症例を予め予測する因子を解明するため、このような症例の癌細胞が比較的早期に転移するものと比べて遺伝学的にどう異なるのかを高密度SNPsアレイを応用して全ゲノムコピー数変異およびコピー数変異のないヘテロ接合性消失(CN-LOH)解析を行い、転移時間の差異が生じるメカニズムを明らかにすることである。 10名の舌扁平上皮癌患者(OTSCC)からそれぞれ得られた原発巣(PT)および頸部リンパ節転移巣(MLN)の計20サンプルを対象に、PTとMLN間での相同性および相違性を評価した。階層クラスタリング解析の結果、10症例中7症例において、原発巣-転移巣のクラスターが形成され、原発巣と同一患者の転移巣は概ね遺伝的に共通した癌細胞集団で構成されていることが裏付けられた。10症例中6例において、8q11.21, 8q12.2-3, 8q21.3のgainおよび22q11.23のlossが共通してみられた。また16p11.2のCN-LOHは10症例中9例で共通してみられ、この変異は発癌過程に大きく関与する可能性が考えられた。一方で、20q11.2のgainは10症例中5例の転移巣のみでみられた変異であり、統計学的有意差をもってp=0.0325)、転移巣特異的な変異であることが示され、転移過程への大きな関与が示唆された。本研究から、OTSCCの原発巣および同一患者の転移巣におけるゲノムは大部分が共通している一方、20q11.2 gainのように”clonal evolution”を通して転移巣特異的に検出された変異が、転移巣の形成に必要であることが示唆された。
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