口腔扁平上皮癌はその解剖学的特徴から、速やかに周囲の顎骨に浸潤し骨を破壊する。多くの症例で顎骨切除や離断を選択せざるを得ないため、術後患者のQOLを低下させる要因の一つとなっている。そこで新たな骨吸収関連因子を同定することを目的に、以下の研究を行った。 1、口腔扁平上皮癌細胞株HSC3から限界希釈法を用いて単一細胞由来クローン化細胞株を13株作成した。各クローン化細胞株についてRANKL誘導能、破骨細胞形成能、骨吸収能を比較したところ、骨吸収能の高いHSC3-C12と骨吸収能の低いHSC3-C17を同定することができた。両クローンの遺伝子発現をマイクロアレイを用いて網羅的に解析・比較したところ、HSC3-C12で発現が上昇していてHSC3-C17で発現が低下している遺伝子で、その差が5倍以上ある遺伝子は11遺伝子存在し、IL-6、MFAP5、PDZK1IP1、FAM155A、PTGS2、CXCL2、AKAP12、DUSP1、NEK3、PLXNC1、SAMD4Aが抽出された。 2、TGF-βは癌周囲の微小環境において重要な役割を担っていることが報告されているが、口腔癌の骨破壊に関するTGF-βの役割については不明な点が多い。そこで口腔癌におけるTGF-βの役割について基礎的研究を行った。(1)口腔扁平上皮癌症例および、HSC3のマウス移植モデルについて、TGF-β、リン酸化Smad2の免疫染色を行なった。結果、癌細胞、癌と骨の間にある繊維芽細胞、破骨細胞にその発現を認めた。(2)HSC3と骨髄由来の繊維芽細胞株ST-2は相当量のTGF-βを合成していた。(3)HSC3の培養上清をST-2に加えると、ST-2のTgf-β1の発現を上昇させた。(4)リコンビナントTGF-β1をRAW264細胞に添加すると、破骨細胞形成が促進される。(5)HSC3のマウス移植モデルにTGF-βⅠ型レセプター阻害薬を投与すると、骨吸収が抑制された。以上(1)~(5)より、癌細胞と、間質細胞から分泌されたTGF-βが、口腔扁平上皮癌による骨吸収に関与していることが明らかとなった。
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