口腔扁平上皮癌のみならず多くの悪性腫瘍は,ゲノムに生じる様々な異常の積み重ねにより生じる.染色体領域の増幅は,遺伝子の発現上昇に密接に関わる異常であり,乳癌ではHER2遺伝子の増幅が乳癌の増殖に寄与しており,それを標的とした治療薬が臨床応用されている.口腔扁平上皮癌では以前より11q13領域に増幅が生じることが知られており,同領域に位置するCCND1やFGF4といった遺伝子が関連遺伝子として検討されてきた.われわれは口腔癌の遺伝学的解析を研究テーマの一つとして行っており,その結果を報告してきた.その結果の一つとして,約20%の症例に8q24.3領域に位置する約100kbの領域で増幅が生じることを発見した.本研究では,増幅が生じる領域に位置する遺伝子の中で口腔扁平上皮癌に高発現している遺伝子を検索し,8番染色体および11番染色体における増幅の生物学的役割の解析と,口腔扁平上皮癌の新規分子標的になり得る遺伝子を明らかにすることを目的として行った.Real time PCR法を用いて,ヒト皮膚ケラチノサイト由来細胞株,口腔上皮異形成症由来細胞株,口腔扁平上皮由来細胞株を用いて,11q13領域に位置する16遺伝子および8q24.3領域に位置する8遺伝子の発現を網羅的にスクリーニングした.11q13領域では5遺伝子を候補遺伝子として選定したが,8q24.3領域では候補遺伝子を選定できなかった.次に,Real time PCR法を用いて遺伝子の増幅と,遺伝子発現の関係を検討した.その結果,1遺伝子が相関関係を認めた.同遺伝子の発現についてWestern blottingで蛋白発現を確認した.同遺伝子の増幅は口腔扁平上皮癌症例50例中13例に生じており,同遺伝子は口腔扁平上皮癌の進展に関わっていると考えられた.
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