1)神奈川県立がんセンターにて治療された扁平上皮癌437症例のFFPE検体を用い、SIRT1発現を免疫組織学的に評価した。その結果、SIRT1の発現は79.6%の症例においてみられ、リンパ節転移とステージに負の相関を示し、独立した予後良好因子(p=0.011)であることがあきらかとなった。
2)SIRT1は以前より臓器(組織)特異的なbehaviorを示すことが知られている。そのため、胃腺癌557症例を対象とし、SIRT1の発現を免疫組織化学、あるいはウエスタンブロット法にて評価した。その結果、SIRT1の発現は61.9%の症例においてみられ、リンパ節転移、脈管侵襲、病理学的ステージと正の相関を示し、予後不良因子であることがあきらかとなった。つまり、前述の頭頚部扁平上皮癌症例における検討とはcontroversialな結果であった。SIRT1は腺癌と扁平上皮癌では全く異なる役割を果たしているのではないかと推察された。
3)口腔扁平上皮癌由来の細胞株HSC-2、KOSC2においてRNA干渉法によりSIRT1の発現を抑制し、上皮細胞の分化、およびstemness維持に関する遺伝子の発現の変動を検討した。その結果、SIRT1の発現を抑制することにより、TAp63の発現が低下することを見出した。興味深いことに、同アイソフォームであるΔNp63(p40)では変化がみられなかった。p63は扁平上皮の分化・形成に必須の蛋白であり、SIRT1はp63を介した機序により癌の悪性度に寄与している可能性が示唆された。今後は、RNA干渉法や発現ベクターを導入することにより、SIRT1の発現を変化させ、細胞増殖能、細胞遊走能、細胞周期、浸潤能などについて順次評価していく予定である。
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