研究課題/領域番号 |
25861996
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
貴田 みゆき 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), その他 (80507442)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 口腔遺伝性疾患 / 遺伝子解析 / 多数歯欠損症 |
研究実績の概要 |
永久歯の先天性欠如は、その発現部位や欠損歯数によって様々なタイプの歯列咬合異常を誘発する。小児期からの健全な永久歯列の育成を目的とした継続的な口腔管理を行う上で大きな問題となる。永久歯先天欠如が生じる原因は、系統発生学的原因・病理学的原因・遺伝的原因に大別される。欠損様式として第三大臼歯を除く永久歯1~6歯までの欠損をHypodontia、6歯以上にわたる欠損をOligodontiaと定義され、6歯以上の永久歯欠損が認められた場合、遺伝学的なバックグラウンドがある可能性が強いとされている。 一般臨床において少数歯先天欠如に遭遇する機会は多いものの、多数歯欠損症例は稀である。多数歯欠損は重度の歯列咬合異常が生じるのみならず審美的障害も伴うため、早期の診断と長期にわたる治療介入が必要となる。 平成22年度日本小児歯科学会学術委員会の報告によると、本邦において永久歯欠損を有するもののうち永久歯5歯以上の先天欠如は0.87%と報告されており、その中にも遺伝性を疑うOligodonia家系が潜在的に存在するものと推測される。本研究では本邦において遺伝性を疑うOligodontia家系を検出し病因遺伝子同定を目的とした解析に重点をおいてすすめている。現在まで本邦において3家系の遺伝子解析を実施した。当該年度には研究関連施設より父親に15歯永久歯欠損、女児に18歯永久歯欠損が認められた重度の遺伝性を疑う多数歯欠損症例の遺伝子解析依頼があり、その解析を施行した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
遺伝性を疑う多数歯欠損症例の責任遺伝子として4番染色体上のMSX1と14番染色体上PAX9の報告が多い。小臼歯欠損が多い症例ではMSX1遺伝子に変異を有するとが多く、大臼歯欠損が多い症例ではPAX9遺伝子に変異を有することが多い傾向がある。当該年度に検出した父親に15歯永久歯欠損、女児に18歯永久歯欠損が認められた重度の遺伝性を疑う多数歯欠損症例では、小臼歯ならびに大臼歯にわたる欠損が確認されたため、MSX1・PAX9両遺伝子を解析対象とする必要があった。なお、遺伝子解析に必要なPrimer設計は全て研究代表者が設計を行い、PCR解析/PCR-SSCP解析/シークエンス解析に必要な条件設定も本研究機関で確立している。 本症例において同一家系内の発症者/非発症者を対象としたPAX9ならびにMSX1解析から、病因との関連を疑う変異は検出されなかった。しかしながら、PAX9に発症者のみに共通してExon2を挟む両Intronに(-41A→G, +41G→A)、Exon3に(239CAC(His)→CAT(His))の塩基置換を検出した。本症例に検出された塩基置換はPAX9 (c.591delC, S197fsX211)1)を有する血縁関係のない遺伝性多数歯欠損家系内の発症者にも共通して検出された。PAX9Exon3(239CAC(His)→CAT(His))は報告のあるSNPであったが、Exon2(-41A→G, +41G→A)の報告はなく、100人のコントロールでも検出されなかった。この塩基置換によるDNA転写時の影響の有無に関し、現在データベースから検証を行っている。血縁関係のない発症者に共通して検出されたことは興味深く、疾患との関連を疑う塩基置換であることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
口腔遺伝性疾患の発症パターンと原因遺伝子の相関が明らかになれば、発症機序の解明や新しい診断システムの開発が可能になる。また、歯胚発生から歯の石灰化に至る過程での原因遺伝子の発現パターンから、治療法の選択について有用な情報を得られることが期待される。遺伝性多数歯欠損症例では同一家系内でもその欠損様式・欠損歯数が多岐にわたることが国際論文でも注視され、他の歯数調整遺伝子が関与している可能性も模索されている。これをふまえ、従来の臨床像による分類から、原因遺伝子に基づく分類への再編成を視野に入れて検討している。さらに、分子レベルでの歯の発生メカニズムの解明、発症前診断をふまえた予防的治療を当面の課題とし、将来的には遺伝子治療を含めた病態治療への応用を目標としている。このように本研究は歯学領域において先駆的なものであり、口腔領域における遺伝性疾患の原因究明を進めることで、今後更なる歯学の発展に貢献できる研究と考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度の研究で同一家系内の発症者/非発症者を対象としたPAX9ならびにMSX1解析から、病因との関連を疑う変異は検出されなかった。しかしながら、PAX9に発症者のみに共通してExon2を挟む両Intronに(-41A→G, +41G→A)、Exon3に(239CAC(His)→CAT(His))の塩基置換を検出した。本症例に検出された塩基置換はPAX9 (c.591delC, S197fsX211)1)を有する血縁関係のない遺伝性多数歯欠損家系内の発症者にも共通して検出された。PAX9Exon3(239CAC(His)→CAT(His))は報告のあるSNPであったが、Exon2(-41A→G, +41G→A)の報告はなく、100人のコントロールでも検出されなかった。この塩基置換によるDNA転写時の影響の有無に関し、パソコンでのデータベースによる解析にシフトしたため未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は先攻研究で病因変異が特定された遺伝性非症候性多数歯欠損症例と本症例との共通点を検索するとともに、新たに報告された責任候補遺伝子としてWntシグナル経路に関与するとされる17番染色体上AXIN2に関しても解析お予定している。今までに確立しているMSX1・PAX9遺伝子解析系同様に、AINX2遺伝子もオリジナルにプライマー設計を行い、PCR解析・PCR-SSCP解析・シークエンス解析の各系の条件設計を行っていく。 さらに同疾患を疑う新規家系を検出したため、未使用額はその経費に充てることとしい。
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