本研究の目的は、顎矯正手術の適応となる顎変形症例に対し、術後に予想される下顎骨内応力の変化を考慮した治療体系を確立することである。すなわち、顎変形症例の術前の顎顔面形態をもとに、顎矯正手術によって変化する咀嚼筋の作用に伴う下顎骨内応力を有限要素法により解析し、手術後に生じた実際の変化と比較検討することで、術後変化を規定する因子を検索する。さらに、症例を重ねて顎態の特徴別に結果を蓄積し、術後変化を考慮した術前・術後矯正治療を体系化することである。 最終年度である本年は、昨年度に作成したモデルを用いて有限要素解析を行った。さらに、顎骨内応力分布と術後変化についての関連について検討を行い、術後変化予測とその予測を組み込んだ治療システムの構築を行った。本解析での結果、顎骨内応力と遠位骨片の変位を求めた結果、術後3ヶ月で起こるとされるadaptive rotationが観察された。特に、遠位骨片後方部で上方への変位が大きく、これは過去に我々が報告した術後変化と同じ傾向を示した。その一方で、その変位量については側面セファログラム上で得られた変化を完全に再現することは困難であることが明らかとなった。本研究によって、術前の状態から顎骨内応力分布とおおよその骨片の変化様相については予測することが可能であり、生体力学的な見地から術後変化の予測に関して、有限要素解析を治療計画の立案に応用することが有益であることが明らかとなった。その一方で、現時点では完全な予測は困難であることから、今後も継続してより再現性の高い物性値の設定や接触条件の模索が不可欠であると考えられた。
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