研究課題
本研究では、歯科矯正治療中に経験的に知られている痛みの中でも、何もしなくても感じる痛みではなく、咬んだときにだけ感じる痛み(咬合痛)の発生機序について調査している。痛みは細胞のエネルギー通貨として良く知られているATPが伝達することが分かっているので、ATPに着目して調査した。調査の結果、末梢刺激としてラットの臼歯を抜歯後に、障害を受けたニューロン周囲のサテライト細胞だけでなく、障害を受けていないニューロン周囲のサテライト細胞も活性化し、またATPレセプターであるP2X3レセプターの発現が上昇していた。ATPの萌出機構について検討するために小胞型ヌクレオチドトランスポーターであるVNUTの三叉神経節における発現を調べたところin vivoとin vitroともに三叉神経節ニューロンとサテライト細胞の療法でVNUT mRNAの発現を認め、in vivoでは免疫染色でも発現が認められた。これらの結果は三叉神経節内の障害を受けたニューロンから放出されたATPがサテライト細胞を介して、離れた部位のニューロンを活性化させ、痛みを増強している可能性を示唆する。また、ラット臼歯においてVNUTの発現を調べたところ、in vitroで象牙芽細胞様細胞にVNUT mRNAの発現を、in vivoで免疫染色によってVNUTの発現を認めた。さらに歯髄神経P2X3レセプターの発現を認め、in vitroにおいてVNUT mRNAの発現を抑制したときに、ATPの細胞外への放出が減少することから、障害を直接受ける歯でもATPを介して痛みが増強する可能性が示された。このATPの細胞外放出機構は離れた場所にある細胞間の情報伝達を可能にする有意義な結果で、矯正治療中に患者が感じる『痛み』の発生機序を明らかにし、痛みを克服する一助となると期待される。
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Acta Histochemica et Cytochemica
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The Journal of Physiological Sciences
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