研究課題
本研究では,歯根膜細胞への分化能を有する初代培養歯原性間葉系細胞 (DMC)を実験に供し,歯胚形成において帽状期,鐘状期の限られた期間に発現が認められる歯小嚢特異的発現遺伝子F-spondinの効果がTGF-βシグナルに関与しているものか否かを検討する目的で,TGF-βシグナルの伝達分子であるSmad3のリン酸化に対するF-spondinの効果を,蛍光細胞免疫染色により調べたところ,DMCにおけるTGF-β刺激はSmad2/3のリン酸化を著明に誘導すること,またその発現部位は核内に認められることが確認された.また,TGF-β誘導性Smadシグナル活性化に対するF-spondinの効果をウェスタンブロッティング法により検討した結果,F-spondinの過剰発現はTGF-βによって誘導されるSmad3のリン酸化を阻害することが明らかになった.次に,TGF-βシグナルに対するF-spondinの転写レベルでの効果を未分化間葉系細胞株C3H10T1/2を用いて検討したところ,DMCと同様に,C3H10T1/2細胞においてもF-spondinの過剰発現はTGF-βによるSmad3のリン酸化を抑制した.また,Smad結合配列 (CAGA) を用いたレポーターアッセイを行ったところ,F-spondinはTGF-β刺激によるSmadシグナルの活性化を有意に阻害した.さらに,F-spondinはTGF-βⅠ型受容体ALK5の恒常的活性型変異受容体ALK5 T204D導入により誘導されるSmadシグナルの活性化に対しても抑制的に作用した.
2: おおむね順調に進展している
歯根膜細胞への分化能を有する初代培養歯原性間葉系細胞 (DMC)を用いて,TGF-βによる歯根膜細胞分化誘導に対するF-spondinの効果を,TGF-βシグナルに対する転写レベルで検討したところ,F-spondinはTGF-β誘導性の歯根膜細胞分化に対して抑制的に作用することが明らかとなった.次に,TGF-βシグナルに対するF-spondinの転写レベルでの効果を検討したところ,DMCと同様に,C3H10T1/2細胞においてもF-spondinの過剰発現はTGF-βによるSmad3のリン酸化を抑制した.また,Smad結合配列 (CAGA) を用いたレポーターアッセイを行ったところ,F-spondinはTGF-β刺激によるSmadシグナルの活性化を有意に阻害した.さらに,F-spondinはTGF-βⅠ型受容体ALK5の恒常的活性型変異受容体ALK5 T204D導入により誘導されるSmadシグナルの活性化に対しても抑制的に作用することがわかっている.現在,F-spondinの発現制御の検討を進めており,当初策定した研究計画書どおりおおむね順調に進展している.
現在,F-spondinの発現に影響を及ぼす因子を明らかにするために,DMCを用いて歯胚形成に関与するWnt3a,IhhおよびTGF-β1刺激を行い,F-spondinの発現の変化を検討したいと考えている.これまでの成果により,歯根膜細胞分化を負に制御することが明らかになりつつあるF-spondinの発現に影響を及ぼす因子を検討する予定である.歯胚形成に関与する因子は数多く知られているが,その中で特に注目されているWnt3a,Ihh, そしてTGF-βがF-spondin発現に及ぼす効果を検討し,F-spondinの発現制御機構の解析をさらに進めることにより,歯根膜,さらには歯根,そして最終的には歯やその歯周組織の形成の分子メカニズムの解明をめざしたいと考えている.
平成26年度に,抗体作製したのち免疫染色を行う予定であったが,研究施設の移動により研究に遅れが生じたから.
F-spondinと結合する細胞膜タンパク質の同定と,その下流シグナル経路の解析を進めることにより,F-spondinによるTGF-βシグナル活性化抑制のメカニズム解明につながると考えている.
すべて 2015 2014
すべて 学会発表 (7件)