研究課題/領域番号 |
25862059
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
中山 洋平 日本大学, 歯学部, 講師 (30434088)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アメロチン / 付着上皮 / 転写調節 |
研究概要 |
炎症性歯肉付着上皮におけるアメロチン(AMTN)の役割を調べることを研究目的として,炎症性サイトカインを歯肉線維芽細胞および歯肉上皮細胞に作用させ,マウスアメロチン遺伝子プロモーターの転写調節機構について検索している。AMTNはエナメル質形成期成熟期のエナメル芽細胞および歯牙放出後の歯肉付着上皮細胞から分泌されるエナメルタンパク質である。エナメル芽細胞基底層だけでなく,歯肉付着上皮内基底板にも局在することから,エナメル芽細胞の分化および付着上皮の形成まで一連の組織発生学的な知見において注目されるタンパク質である。今回,炎症性サイトカイン刺激後のマウスAMTN遺伝子の転写調節機構の解析を行うことで,炎症時における付着上皮の恒常性に関わると思われる転写因子の同定を研究の目的としている。 AMTNは主にエナメル質形成分泌期後期および成熟期のエナメル芽細胞から分泌されるが,成熟過程のエナメル質に隣接するエナメル芽細胞基底層と歯肉付着上皮に局在している。AMTN遺伝子過剰発現マウスは,正常マウスに比べて付着上皮細胞が不規則に配列することが分かっている。歯周組織とエナメル質との接着を担い,歯周病原菌の体内への入り口である付着上皮における,AMTNタンパク質の分子機構は明らかにされていない。我々の研究では,炎症性サイトカイン(IL1β,IL6,TNFαおよびPGE2)にて,歯肉線維芽細胞に作用させると,刺激12時間後にAMTN遺伝子発現は増加した。同様に歯肉上皮細胞に作用させた場合,TNFαおよびPGE2刺激12時間後にAMTN遺伝子発現は増加した。また付着上皮に局在する他のタンパク質の遺伝子発現量も検索している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
炎症時におけるアメロチン遺伝子発現の調節機構を,おもにプロモーター領域に焦点を当てて研究を進めている。培養細胞としてヒト歯肉線維芽細胞を用いた研究においては,アメロチン遺伝子発現は炎症性サイトカインによって増加することをReal time PCRにて示した。次に,マウスアメロチン遺伝子プロモーターを挿入したルシフェラーゼプラスミドを作製し,転写開始点から-878塩基対上流までのプロモーター配列を含むコンストラクトにおいて,炎症性サイトカイン刺激によりアメロチン遺伝子の転写活性を認めた。 そこで,炎症性サイトカイン(IL1β,IL6,TNFαおよびPGE2)に応答する塩基配列を同定するため,さらにプロモーター領域を短くした,-116Amtn,-238Amtn,-460Amtn,-705Amtnおよび-800Amtnコンストラクトを作製した。この作製にかなりの時間を費やしたため,まだ具体的な応答配列の同定は行ってはいない。またヒト歯肉線維芽細胞でのアメロチン遺伝子発現量は微量と思われ,細胞導入後の内因性の転写因子によるルシフェラーゼアッセイによる転写活性が弱いことから,線維芽細胞よりもアメロチンタンパク質の発現が大きいと思われるマウス歯肉上皮細胞においても同様の実験を行っている。 また炎症時のアメロチンタンパク質の発現量の変化および局在を検索する目的で,歯周外科治療時に採取したヒト歯肉上皮から抽出したタンパク質を用いて,アメロチンタンパク質発現量の変化や,歯周病原菌感染させた歯周病モデルマウスを用いて,炎症時におけるアメロチンタンパク質の局在についても調べる必要があり,転写調節機構の検索にすべての実験時間をさいていないのが現状である。
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今後の研究の推進方策 |
作製した-116Amtn,-238Amtn,-460Amtn,-705Amtnおよび-800Amtnルシフェラーゼコンストラクトを用いて,炎症性サイトカイン(IL1β,IL6,TNFαおよびPGE2)刺激することで,どのコンストラクトにおける転写活性の上昇が大きいかを検索する予定である。そして,特に上昇したプロモーター領域の合成オリゴヌクレオチドを作製し,ゲルシフトアッセイを行う予定である。コンセンサスの配列であれば,市販されている合成オリゴヌクレオチドを用いることもできる。 今回用いた炎症性サイトカインの細胞内情報伝達系および誘導される転写因子は,いくつか知られている。その中でもAP1やNFκBなどが誘導されることが知られているため,これらのコンセンサス応答配列と,炎症性サイトカイン刺激後の核内タンパク質を用いて,ゲルシフトアッセイを行うことも応答配列の同定に役立つと思われる。また同様の核内タンパク質のウエスタンブロットを行うことでプロモーター領域に結合する転写因子の検索の参考になると思われる。 使用している歯肉上皮細胞であるGE1細胞は,厳密にはマウス歯肉角化上皮細胞であるので,歯肉付着上皮細胞に局在するアメロチン遺伝子の発現レベルおよびタンパク質発現レベルを検索する必要があると思われ,それにより歯肉付着上皮細胞のマーカー遺伝子であるアメロチン以外の遺伝子,すなわちODAMやFDC-SPおよびラミニン5などの発現レベルを示す予定である。 今回用いた炎症性サイトカインのうちいくつかはLPSにて誘導されることから,GE1細胞にLPSを経時的に刺激し,細胞から抽出したmRNAやタンパク質を用いることで,大まかに炎症時のアメロチン遺伝子発現量の変化を示し裏つけることができる。また歯周病原菌であるPgおよびAa菌由来のLPSをマウスに播種した歯周病モデルマウスを用いることで,炎症時のアメロチン遺伝子を含む,付着上皮のマーカー遺伝子の変化を検索する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
マウスアメロチンプロモーター領域における転写因子の応答配列の検索にあたり,プロモーター領域の塩基配列をさまざまな長さに調節し,それをルシフェラーゼプラスミドに挿入して作製した。作製には制限酵素ならびにコンピテント細胞などを購入したが,作製に費やした期間が予想以上にかかってしまった。このプラスミドを細胞に遺伝子導入する際に使用する,リポフェクタミン2000が非常に高価であり,これを使用するために今回の研究費が必要であった。しかしながらプラスミド作製に期間をようしたため,予想以上にリポフェクタミン2000の消費が少なく,研究費の浪費が遅れたため,次年度使用額が生じたと思われる。 マウスアメロチンプロモーター領域の塩基配列をさまざまな長さに調節し,それをルシフェラーゼプラスミドに挿入して作製したプラスミドを用いて,炎症性サイトカイン刺激時に反応する応答配列を同定するために,ルシフェラーゼアッセイを継続していく予定である。また炎症性サイトカインの種類や,歯肉線維芽細胞および歯肉上皮細胞を用いることで研究の幅を広げつつ,転写調節機構のみならず,アメロチンタンパク質の局在や発現レベルを検索するよていであり,これに研究費をあてるつもりである。
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