本研究は、地域一般住民を対象に、脳心血管疾患の発症基盤である動脈硬化の進行と歯周病との関連を解析し、両者の関係を明らかにすることを目的としている。 調査対象は申請者が参画している「大迫研究」のコホート集団(岩手県花巻市大迫町在住、55歳以上の男女)である。大迫研究は、東北大学大学院医学系研究科を中心に1986年より続く岩手県花巻市大迫町の一般住民を対象とした高血圧・循環器疾患に関する長期前向きコホート研究で、東北大学21世紀COE「医薬開発統括学術分野創生と人材育成拠点“CRESCENDO”」(2004-2009)の基盤研究でもある。歯科検診は2004年から導入されている。 平成25年度は、10月~3月の間に計4回の医科・歯科検診を実施した。検診を受診した105名に対し歯科パノラマX線撮影を含む歯科学検査(口腔内診査、歯周病検査、口腔衛生状態におよび義歯に関する聞き取り調査)と医科学検査(頸動脈超音波検査、上腕-足首間脈波伝播速度測定、脈波増大係数(AI)算出、血液検査、身体検査、喫煙歴・飲酒歴・既往歴等の聴取)を行い、歯周病を包括的に評価する歯科データ、動脈硬化の評価指標ならびに交絡因子となる各種データを得た。平成26年度および平成27年度においても、毎年計5回の検診を実施し、それぞれ128名、115名から同様に各種データを採得した。 本研究期間より以前に得られているデータも合わせて歯周病と動脈硬化の関連を統計学的に検討したところ、縦断的な解析では有意差は得られなかったものの、横断的な解析から、歯周病と動脈硬化それぞれを評価する指標の特性によって、性差も含めそれらの関連に異なる特徴がみられることがわかった。それらのことから、歯周治療による良好な口腔衛生状態の維持、または歯周病が慢性化・重篤化する前に炎症を抑えることが、動脈硬化の異なる病態に対してその予防および改善に有効である可能性が示唆された。
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