口腔乾燥感,舌痛,味覚異常など口腔粘膜違和感に対する細胞学的評価法を確立するために,本年度は口腔粘膜違和感のリスク因子について検討した. 対象は,加療されていない口腔内違和感を訴えた高齢者のうち,研究に同意した968人とした.対象の初診時に独自に作成した自記式調査票を配布し,診療開始前に回収する方法とした.項目は属性,主な来院理由(主訴),全身疾患,服薬状況,体質や生活環境,義歯の使用状況や舌の可動などの口腔内状態および口の乾きや喉の渇きに関係する自覚症状などの43項目とした.舌の痛みについては,そのうちの女性312人(平均74.3±5.9歳)と,味覚異常に関しては味覚変化の発症する可能性の疾患などがない382人(平均74.3±6.1歳)を対象として分析した. 舌痛に対する検討では,全体の90.4%である282人が常用薬を服用しており,その多くは睡眠導入剤であった.舌痛と『口の中が乾く』,『睡眠導入剤の服用』,および『水分を心がけて摂取しようとする』などとの間に有意な関係が認められた. 味の変化について検討した者の90%以上が薬剤を服用しており,『睡眠薬服用』と『消化器系薬服用』の項目で味の変化に関して有意差を認めた.他に味の変化を認めた者では,『貧血の既往』,『よくめまいがする』,『食欲がない』,『口の中がネバネバする,話しにくい』,『手足がむくみやすい』,『天気が悪い時に関節の痛みや頭痛を感じる』との有意な関係を認めた. 独自に作成した質問票は口腔内違和感とそのリスク要因を知るために有用であった.本結果から,一般に口腔心身症と原因不明と考えられている口腔内違和感の発症には多要因が複雑に絡み合っていることがわかった.今後は要因ごとの口腔粘膜における細胞学的評価を行い,より詳細な違和感の原因を追及する予定である.
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