毎年流行するインフルエンザにより高齢者を中心に多くの命が失われている。また、新型インフルエンザの流行も危惧されており、インフルエンザの予防対策は喫緊の課題である。インフルエンザは口腔と密接に関連しており、口腔ケアがインフルエンザの予防に有効とされているが、その分子メカニズムは不明である。そこで本研究では、ウイルスの宿主感染機構に注目し、口腔内細菌がウイルスの感染性に及ぼす影響を検討した。 インフルエンザウイルスが感染性を獲得するには、ヘマグルチニン(HA)がプロテアーゼによりHA1とHA2に開裂しなければならない。このプロテアーゼは主に宿主由来と考えられているが、黄色ブドウ球菌によっても開裂する。口腔ケアはインフルエンザ発症のリスクを低下させる事実から、口腔内細菌由来のプロテアーゼがHAを開裂し、インフルエンザウイルス感染に関与している可能性がある。そこで本年度はPorphyromonas gingivalisがインフルエンザウイルス感染に及ぼす影響について検討した。P. gingivalis培養上清がHAを開裂するか否か検討した結果、開裂が確認された。つぎにP. gingivalis培養上清によりインフルエンザウイルスが感染性を獲得したか否かを細胞感染実験により検討した結果、P. gingivalis培養上清非添加群ではほとんど感染が成立しないものの、添加群においては多くの細胞に感染した。以上の結果から、P. gingivalisが産生するプロテアーゼがHAを開裂し、インフルエンザウイルスは感染性を獲得することが示唆された。
|