本研究は、車いす走行上の障害となりやすい段差通過時に操作するティッピングレバーの形状・位置とグリップに着目し、①介助者の身体負担と乗車者の乗り心地、②操作姿勢と車いすの走行動態との関係を検討し、高齢介助者や介助未経験者にも軽負担かつ容易な操作が可能な標準型車いすを提案する。 本年度は、研究1研究2の結果をもとに標準型車いすの改善点を検証した。研究2の筋電図結果では、特に前腕撓側主根屈筋において、現行型のティッピングレバーに比べ水平方向に長いティッピングレバーの方が筋負荷が少なかった。ティッピングレバーを用いた介助操作の容易性は、第一に上下肢の運動の連動性が影響することが推察された。そのため、研究3では、グリップ材質ではなく踏み込み動作とグリップの押し下げ動作の複合運動に着目した。対象者は、介助者・乗車者とも高齢女性各15名とした。車いすは、①加工型:ティッピングレバーを水平方向に80㎜長く加工(研究1と研究2にて評価が高く効果的な踏み込みが行われていた位置条件)、②標準型:ティッピングレバー加工なしの2条件を設定した。車いすの操作は、前輪はレバーを踏み前輪を浮かせて乗り上げ、後輪はグリップを持ち後輪を浮かせながら段差に押し付けて乗り上げる方法とし、高さ90㎜の段差通過区間における車いすの走行軌跡や介助者の操作姿勢、上下肢の筋電図(平成26年度科学研究費にて購入)、グリップへの接触圧、乗車者・介助者の主観評価、を計測した。その結果、介助者の主観評価では、前輪の持ち上げやすさ、レバーの踏み込みやすさなどの項目で、加工型が標準型に比べ有意に高評価を示した。車いすの段差乗り上げ操作に用いるティッピングレバーの形状・位置により、上下肢の連動運動が容易に実施でき、身体的負担を軽減する可能性が示されたことは、福祉機器による介助の安全性の向上に結び付くと考える。
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