研究課題/領域番号 |
25862196
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 長野県看護大学 |
研究代表者 |
中畑 千夏子 長野県看護大学, 看護学部, 助教 (60438174)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 常在細菌叢 / 新生児 / MLVA法 / 表皮ブドウ球菌 |
研究概要 |
免疫系の未発達な新生児にとって、感染の予防とりわけMRSAに代表される薬剤耐性菌の感染を防ぐためには、正常な常在細菌叢の早期獲得が重要であり、母親から児への常在細菌叢の移行・定着がそのための有用な方策であるとも考えられている。しかし、こうした細菌叢の移行あるいは獲得の過程についてその詳細は明らかにされていない。研究者は様々な理由から母親との接触が得られない新生児に、正常な常在細菌叢を獲得させるための介入方法を確立したいと考えている。このための一助として、母子間の直接的な接触が積極的に実施された健常新生児において、母親由来の常在細菌が児に移行し定着する過程をまずは知る必要がある。具体的には、ヒト常在細菌叢の主要な構成菌の一つである表皮ブドウ球菌について、特定の菌株が新生児とその母親に共通して見出されるかを経時的に調べることにした。このためには、対象となる菌の異同を見出すための方策が必要であるが、本研究ではDNA上に存在するVNTR(variable number of tandem repeats)領域による解析(MLVA法)の有用性を検討した。 健康な学生から提供された表皮ブドウ球菌24株を使用した。VNTRローカスについては4種(Se1,Se2,Se3,Se4)を解析の対象とした。その結果、24株の表皮ブドウ球菌とreference strainであるATCC12228株の合計25株について、4種類のVNTRローカスを解析した。ATCC12228株を含む23株が、これらのVNTRローカスを構成するrepeat copy numberの違いから各々異なる菌株として識別された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究では、早期の直接授乳および母児同室など、母児間の直接的な接触が積極的にとられた健常新生児について、母児由来の常在細菌が児に移行するか否かを明らかにすることを前提としているが、そのためにはまず、母児それぞれから分離された菌株の異同を確認する手段として具体的な方法を検討する必要がある。このような菌株の識別には、従来からパルスフィールド電気泳動法(PFGE)が用いられてきた。同法は非常に精度の高い方法であるが、手技が煩雑で熟練を要すことや、結果を得るまでに時間がかかることに加え、コストもかかることから、多検体の分析を必要とする本研究には適していない。したがって、本研究では同法に代わる方法として、Multiple-locus variable-number of tandem repeat analysis(MLVA)法による解析を検討した。今回、指標菌として選択した表皮ブドウ球菌はヒトの常在細菌として主要なものであるが、MLVA法を用いて表皮ブドウ球菌株の識別を行った基礎的研究が少ないため、その有用性について検討した。対象とした表皮ブドウ球菌は24株であり、当初予定していた菌株数を下回るものであったが、今回の研究におけるMLVA法の有用性については十分な結果が得られたため、研究計画が予定通り進んだものとし、来年度以降は次の段階へステップアップする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成26年度は、実際に周産期に通常の経過をたどった母児より分離した表皮ブドウ球菌について、MLVA法を用いてそれらの異同を調べる。具体的には、母児約30組を対象とし、母親は分娩後の入院期間中に1回、新生児は生後1日目、6日目および1か月後の計3回において、鼻腔内の細菌を採取する。その後、表皮ブドウ球菌を分離し、前述のMLVA法によりその同一性について調べ、母親と同じ表皮ブドウ球菌の菌株が新生児に移行または定着しているかを明らかにする。これにより、母親の保有する常在細菌としての表皮ブドウ球菌が、どの時期に新生児へ移行および定着し、さらには1か月後においても維持されるかが明らかとなる。同時に出産時の条件(正常分娩または帝王切開等)、抗菌薬投与の有無、母乳摂取状況等についても聞き取り調査を実施する予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験に用いる試薬等について、当初は新規購入する予定であったが、研究者の所属する分野において行っている他の実験に用いた試薬に余剰分が生じる等、新規で購入する必要がなくなった。また、当初の予定より実際に実験に用いた検体数が少なかったため、コストの減少につながった。 表皮ブドウ球菌の異同について、MLVA法による識別の有用性はこれまでに確認できたと考えているが、さらに信頼性を確固なものとするため菌株数を増やし、今後の研究と並行して平成26年度も実験を続ける予定である。そのためには新たに必要な材料を購入しなければならない。 また平成26年度は、研究者が実際に周産期病棟へ出向き、サンプリングを行う予定であるが、これには遠方の病院も含まれる可能性が生じているため、その際には出張のための必要経費が増加することも見込まれる。
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