本研究では、男性因子不妊にてARTを受ける夫の治療への意思決定過程を明らかにし、その特徴と具体的支援を探究することを目的とし、男性因子不妊患者ケアの基盤的研究になることを想定した。研究実施計画に則り、研究期間は平成25年~26年の2年間とし、男性因子不妊と診断されARTに臨む男性に調査依頼をし、インタビューを行う計画のもと調査を行った。東北地方にある2か所のクリニックおよび甲信越地方のクリニック1か所、計3施設において、無精子症(非閉塞性無精子症・閉塞性無精子症)若しくは重度の乏精子症にて、局所麻酔や腰椎麻酔下に精巣上体から精子を回収する顕微鏡下精巣内精子採取術(microdisection- testicular sperm extraction;MD-TESE)や精巣内精子回収法TESE(testicular sperm extraction; TESE)を予定し、精子採取後にARTを計画された男性因子不妊患者55名に依頼を行い、計30名の男性因子不妊患者からのインタビュー調査を完了した。また、インタビュー調査依頼と実施を継続しながら、質的研究であるためインタビューと分析を同時進行で実施した。その結果、男性因子不妊患者の治療への意思決定過程として、「診断告知時の衝撃の大きさ」がありながらも、「妻からの全面的な支援」を基に「やれることはすべてやりたい」という思いを抱きながら、「圧倒的な男性不妊治療に関する情報量の少なさ」を体験しつつもARTという高度な治療を選択してくという意思決定過程をたどることが明らかとなった。これまで明らかにならなかった男性不妊患者の思いや体験が具体的になったことで、診断告知時のあり方やその後の治療の情報提供や相談システム、支える妻への支援等を検討していく必要性が示唆された。
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