本研究では、産前・産後の父親のメンタルヘルスを支えることを目的とするプログラムを開発し、その効果について無作為化比較試験によって評価することを目的とした。本研究の主な成果としては、①父親向けの冊子の開発、②その冊子の効果の検証、③妊娠期の父親への教育介入に関する系統的レビューの実施、の3点が挙げられる。 まず、父親への聞き取りや先行研究、育児書、自治体が作成した父子手帳などに採り入れられた情報・知見をもとに、B5判32ページからなる父親向けの産前・産後の情報をまとめた冊子「先輩パパによる家事・育児のススメ」を作成した。 次に、その冊子を配布すること、すなわち、妊娠期に父親に情報提供をすることの効果を検証するために、妊娠中期の妊婦とそのパートナーを対象とする無作為化比較試験を実施した。冊子が配布された介入群と配布されていない対照群では、産後1か月時のEPDSによるmaternal depressionおよびpaternal depressionのリスクや、父親の育児行動、母親の育児ストレス、家族からのサポートなどに、有意な差は認められなかった。今後、更なる詳細な解析が必要ではあるものの、現時点では目立った効果は検証されなかったと言える。 また、父親妊娠期の父親への教育介入の効果について系統的レビューをおこなったところ、11の介入試験が抽出された。メタ解析をおこなった結果、妊娠期の父親への教育的介入が父親の産後うつや夫婦関係に良い影響を与えることを示す科学的根拠は得られなかった。 無作為化比較試験および系統的レビューのいずれにおいても、妊娠期の父親への教育的介入の目立った効果がみられなかったことから、産後の夫婦のメンタルヘルスや家事・育児行動を改善するためには、単に両親学級などのような情報提供を中心とする介入のみでは不十分である可能性が示唆された。
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