研究課題/領域番号 |
25862225
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
留畑 寿美江 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (40360995)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 排尿機能 / 老化 / 自律神経 |
研究実績の概要 |
頻尿や尿失禁などの蓄尿機能障害や尿の排出困難、残尿などの尿排出障害がある。特に、尿失禁は、高齢者のQOLおよび健康自己評価を著しく低下させる主要な原因の一つである。尿失禁への適切な対策は、高齢者のQOL向上、健康の維持・増進、自立した生活のため重要な課題になっている。本研究の目的の一つは、高齢女性の排尿機能と自律神経、特に副交感神経の機能の関連を明らかにすることである。そこで、高齢者の排尿機能と自律神経の関連を探索するためには、加齢による排尿機能の変化を若年者の排尿機能と比較検証することが必要である。 平成26年度は、平成25年度からの引き続きとして若年女性を対象に可能な限り自然な排尿条件での尿流量測定と心電図の計測を実施した。また在宅で自立して生活している高齢女性も対象に加え、自然な排尿条件での尿流量測定と心電図の計測を実施した。 初発尿意時における排尿量は若年女性と高齢女性では同等量であった。しかし、同等量の尿を排出するための膀胱収縮の強さと尿排出時間に両者間で異なる結果が生じた。高齢女性は、最も膀胱が強く収縮することを示す最大尿流率が若年女性よりも有意に小さく、かつ排尿開始から最大尿流率に達する時間が延長していた。さらに、実排尿時間が有意に長く、そのため平均尿流率も高齢女性は若年女性に比べ有意に小さかった。この特徴は、排尿開始から排尿終了後までの心拍数の変動が若年女性と異なる高齢女性に多く認められた。平成25年度のデータから、若年女性は排尿開始直後から排尿終了時までの心拍数は蓄尿時の心拍数より少なくなり、排尿終了後にすみやかに排尿前の心拍数に戻ることがわかっている。本年度の調査から、心拍変動がみられない、または変動が遅い高齢女性が確認された。この高齢女性らは、膀胱の収縮が弱く、排尿時間を延長させて排尿していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の最終目的は、高齢者の排尿機能と自律神経の機能の関連を明らかにすることである。高齢者の排尿機能と自律神経の関連を探索するためには、老化による排尿機能の変化のない健康な若年者との比較検証が必要である。平成26年度は若年女性被験者の追加調査および、在宅で自立した日常生活を送っている高齢女性被験者の調査を行った。 若年女性被験者の排尿機能および排尿時の心拍の変動は、概ね一定のタイプを呈することが示された。一方、高齢女性は若年女性と同様の排尿機能および排尿時の心拍変動をとる群ととらない群の2タイプがあることが現時点で示された。排尿は副交感神経からの刺激により膀胱の収縮と尿道括約筋の弛緩が起きる。このとき、副交感神経が優位になることで心拍はやや心拍数が減少する。しかし、若年女性と異なる応答をする高齢女性は、排尿開始後の心拍変動が生じず、膀胱の収縮が弱いまま排尿時間を延長させて尿が排出される。膀胱の収縮の弱さは、排尿開始から排尿終了までの副交感神経による応答が加齢によって弱まっている心拍変動の状態から推察可能なデータを得ることができた。「排尿機能と心拍変動」タイプをさらに詳細に分析をすすめるために高齢女性被験者を増やし、平成27年度も高齢女性の排尿調査を引き続き行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の被験者一人の調査は、尿意出現時に排尿機能と排尿時心拍数の計測を同時に開始する。尿意の出現は個人差があり、複数の被験者を同一時間帯に計測することは困難である。通常の条件下での排尿および心拍の計測をするためには、被験者の焦りや行動を急かすことは禁忌となる。調査機器環境、被験者が調査開始前から過度の緊張を持たないよう調整を行いながら、平成26年度と同様に高齢女性の調査を継続する。 また、若年女性と高齢女性の排尿機能の相違を論文として公表することを予定している。 さらに、研究最終年度の温熱刺激が排尿機能の低下に与える効果の調査のために、血流計などの機器を準備し、調査環境を整えることを予定している。
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