本研究はLazarusのストレス-コーピング理論を用いて転倒恐怖感が老いの受容をめぐるストレス現象であるという仮説に基づいて、地域在住高齢者が転倒に脅威を抱きながらもいかにして対処しようとしているのかという転倒の対処方略を明らかにすることを目的としている。 平成25年度は地域在住高齢者へのインタビュー調査から転倒の対処方略の内容について自己効力感の枠組みから明らかにした。平成26年度は、この調査結果をもとに転倒の対処方略尺度を独自に開発し、転倒に対する脅威としての認識(以下:転倒脅威)と転倒の対処方略(以下:転倒対処方略)の関係性および精神的健康への影響を明らかにすることで、転倒に脅威を抱いていてもストレス状態にならない対処方略について検証した。 A市選挙管理委員会の承諾を得て選挙人名簿抄本より65歳以上の高齢者2000名を無作為抽出し、郵送法による質問紙調査を実施した。回収は806名(回収率40.3%)であり、このうち転倒の自覚がある390名を分析対象とした。転倒対処方略項目の因子構造を確認するために最尤法、プロマックス回転による探索的因子分析を実施し、「身体づくり」「意識・心がけ」「実現化」「老いの受容」の4因子が抽出された。 また、転倒脅威5下位尺度と転倒対処方略4下位尺度の組み合わせ計20パターンに対して、精神的健康を従属変数、転倒脅威、転倒対処方略、転倒脅威と転倒対処方略の交互作用をそれぞれ独立変数とする階層的重回帰分析を実施した。その結果、「身体づくり」「実現化」「老いの受容」という転倒対処方略ではストレス緩衝効果が認められ、とくに転倒することで他者に依存しなければならないという脅威に対して、自己をみつめて健康維持のための身体(からだ)づくりをするという対処方略の自己効力感が高いことがストレスを予防している可能性があることが示唆された。
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