研究概要 |
極長鎖脂肪酸(炭素数22以上の脂肪酸)は長鎖脂肪酸に比べ生体内での存在量は非常に微量であるにも関わらず,長鎖脂肪酸では代替できない様々な生理機能に関与している。申請者らは長年不明であった極長鎖脂肪酸の合成過程における脱水反応を触媒する酵素としてHACDファミリー(HACD1-4)を同定し,その中でもHACD1は筋分化に重要であること,HACD1遺伝子変異がミオパチー発症に関与していることをこれまでに見出している。しかし,HACD1がどのような極長鎖脂肪酸の合成に関わり,合成された極長鎖脂肪酸がどのようなメカニズムで機能しているかは明らかになっていない。そこで本研究ではHACDファミリーの基質特異性解析による極長鎖脂肪酸合成機構の解明および筋分化,ミオパチー発症に関わる極長鎖脂肪酸の同定とその作用機構の解明を目的に研究を遂行する。当該年度では,まずHacd1ノックアウトマウスの脂肪酸組成の網羅的解析を行なった。その結果,Hacd1ノックアウトマウスでは飽和および一価不飽和脂肪酸量に差は見られなかったが,種々の多価不飽和脂肪酸(C18:3, C20:3, C20:4, C20:5 C22:4, C22:5, C24:5)量が有意に減少していることを明らかにした。また,先天性ミオパチー患者の遺伝子解析によりHACD1遺伝子のナンセンス変異(744番目のシトシンがアデニンに置換)を発見し,転写された変異型 mRNA は分解により野生型に比べ減少していること, 変異型 HACD1 は脱水活性を示さないことを示した。これまでHacd1とミオパチーとの関連性はマウス,イヌを用いた遺伝子解析でのみ証明されていたが,本研究により初めてヒトにおいてもHacd1変異が先天的ミオパチーの原因となることが証明された。
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