極長鎖脂肪酸(炭素数(C)が20より長い脂肪酸)は,生体内での存在量は長鎖脂肪酸(炭素数12~20の脂肪酸)に比べ微量であるものの,長鎖脂肪酸では代替できない様々な生理機能に関与している。HACDファミリー(HACD1~4)は極長鎖脂肪酸の合成過程における脱水反応を担うが,HACDファミリーの生理機能には不明な点が多い。申請者らはヒトHACD1遺伝子変異がミオパチー発症に関与していることを昨年度に報告したが,HACD1が合成に関与する極長鎖脂肪酸の同定には至っておらず,ミオパチー発症の詳細な分子メカニズムは明らかになっていない。平成26年度は,筋芽細胞を用いたHACD1の機能解析,および酵母発現系を用いたHACDファミリーの基質特異性解析を行った。筋芽細胞株C2C12細胞を用いた解析において,Hacd1をノックダウンしたC2C12細胞では野生型に比べ分化能が低下し,C18以上の脂肪酸が減少していること,また一価不飽和の脂肪酸が減少していることを見出した。Hacd1ノックダウン細胞の分化の過程においてC18の飽和または一価不飽和の脂肪酸を添加することで分化能が回復することも明らかにした。さらにはHacd1ノックダウン細胞では膜の流動性が低下しており,このことが筋分化過程における細胞融合による筋管形成に重要である可能性を見出した。酵母発現系を用いた基質特異性解析により,HACD1は飽和のC16からC26の脂肪酸の合成に関与しているが,その中でも一価不飽和のC24脂肪酸の合成能が高いことを見出した。HACD2は飽和および一価不飽和のC16からC26の,HACD3はC16からC20の3-ヒドロキシアシルCoAに対する脱水活性を有することを明らかにし,極長鎖脂肪酸合成の多様性形成メカニズムの一端を解明することができた。
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