平成28年度は、ソ連時代の自然改造理念、ソ連時代のアラル海流域での水資源管理の実態について重点的に調査を行うと同時に、カザフスタンでのインタビュー調査を通じて、小アラル海地域の復興の現状と問題点についてサーベイをした。また、これまでの研究成果のアウトプットとブラッシュアップに注力した。 ソ連時代の自然改造理念については関連する英語・ロシア語書籍(二次文献を含む)の収集を継続的に行った。1月にカザフスタン出張を行い、カザフスタン共和国中央国立文書館及びアラリスク地区国立公文書館にて水利関係の公文書資料の閲覧・収集を実施した。これにより、ソ連水利・土地改良省がハブとなって、アラル海流域の共和国間の水資源配分を行うメカニズムが存在していたことが明らかになった。また、同じ国外出張では、アルマトゥ、タラズ、アラリスク、シムケントの四都市を訪問し、水利ならびに漁業関係者からの聞き取りを実施した(カザフスタンとの共同研究)。これにより、ここ数年、順調に復興していたと考えられていた小アラル海地域について、漁業資源の枯渇問題などその持続可能性に疑問があるということが分かった。 研究成果のアウトプットについては、4月にアメリカ・リノで開催されたAssociation for Borderlands Studies年次大会にてアラル海災害と復興の現状について報告した。5月にドイツ・ハンブルグで開催されたBorder Region in Transition第15回大会では災害復興におけるアクター間の関係の通時的な変遷について報告した。5月、香港で開催された“Empire of Water”国際会議では、アラル海災害の初期対応策について報告をし、環境史の専門家から幅広いコメントをいただいた。10月、ロシア史研究会年次大会で、ペレストロイカ期のアラル海災害への対応策についての議論について報告した。
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