研究課題/領域番号 |
25870005
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
中野 直人 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助教 (30612642)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 偏微分方程式 / 常微分方程式 / 単純剪断流 / 線型安定性 / 特異定常解 / 数値解析 / 連続体モデル |
研究概要 |
密度勾配に依存する応力を持つ連続体モデルは,密度函数と速度場ベクトルを未知函数にもつ非線型偏微分方程式系によって与えられ,その主要項に密度函数に関する退化非線型項を含んでいる.このため,まずは簡単な流れの場合に限定して解析した. 単純剪断流であるCouette流の解は,密度が一定でかつ速度場が放物線で表される有名な流れのプロファイルと,密度函数のグラフが空間方向にスケールされたサイクロイド曲線で表される非自明な定常解(サイクロイド解)の2種類があることがわかる.後者は,密度勾配の不連続または発散を許す特異な定常解であり,このモデル方程式特有の性質である.このサイクロイド解のスケール極限と密度一定解の線型安定性に関して,日本流体力学会年会2013において発表し,現在論文を投稿準備中である. このサイクロイド解は,空間変数の次元を単純に1にする問題においても定常解として現れる.滑らかな初期値から出発してもこの特異的な定常解に漸近するのであれば,密度函数の2階導函数は発散するため,時間発展方程式の適切性の議論が重要である.また,重ラプラシアンによる正則化項を付与した本モデルの空間1次元方程式系に対して,周期境界条件を課した初期値問題での有限差分法による数値計算では,滑らかな初期値に対しても,有限時間内にその解(密度函数)のグラフが尖ることが観察されており,非定常問題の非適切性が疑われていた.このため,まずはその周期境界条件での正則化空間1次元問題に対する時間局所解の一意存在性を証明した.密度函数を既知とするときの方程式系は速度場のノルム評価が閉じるため,特性曲線の方法を用いた運動方程式と速度場を既知とした連続の式を連立した逐次近似法を用いて時間局所解の存在性を証明する.この結果に関しても現在論文を投稿準備中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成25年度は空間1次元問題の解の一意存在性の証明を計画していた.時間大域解の証明の完結までにはいたらなかったが,時間局所解の一意存在性について解析できたため,ある程度の達成度はみとめられる.また,学会発表や論文の執筆状況を踏まえると,本研究課題はおおむね順調に進展していると言える.
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今後の研究の推進方策 |
25年度中に得られた空間1次元問題に対する時間局所解の一意存在性の解析を基にして,時間大域解の存在性を解析したい.空間次元が1であることと時間局所解のノルム評価の形から任意の時刻まで解を延長することが可能であると考えている. 問題の適切性が担保されれば,数値計算の有意性が確保できるため,使用する離散化手法の選択や実装に対する準備を始める.はじめ空間1次元問題に対する非定常問題に対して数値的検証をおこなう.数値計算による非定常問題の解のグラフの尖り(すなわち2階導函数の爆発)は,仮にそれが本当に発生するとしても2階導函数の可積分性が保証されるなら,モデル方程式内の密度勾配の2次非線形性により,Sobolev 空間を用いた解析と矛盾するわけではなく,数学解析の結果からは直ちに判定できない.また,その問題に対する有限差分法による数値計算はグラフが尖ったあとも破綻せず続き,定常状態に漸近しているように見える.グラフの尖りが低解像度に起因する可能性も否定できず,尖った後の解の挙動を正当化するためにグラフの突端部分の詳細な解像を試みたい. ここでは解析の対象を,速度場の初期値を0,密度函数の初期値をグラフが有限時間内に尖る場合に限定する.空間変数の離散化には擬スペクトル法を,時間変数の離散化には4次Runge=Kutta法を用い,切断波数を十分大きくすることで尖りを解像することを試みる.ただし,本モデル方程式は硬い方程式のため,時間刻みを通常の流体モデルより小さくせねばならず,時間方向に4次Runge=Kutta法を用いると倍精度では丸め誤差の影響が無視できない.したがって,さらに空間分割・時間分割を細かくする本課題では,多倍長演算により計算精度を確保する.今年度は多倍長演算・高解像度計算を実施するための計算機の導入とスーパーコンピュータ利用を計画している.
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