研究実績の概要 |
当該年度では原子間力顕微鏡を設置する環境改善を中心に行った。昨年度はインキュベータにより環境温度を+5℃に保ち観察部を-10℃まで冷やすことに成功したが、当該年度では環境温度を-10℃以下にできるインキュベータを導入した。その結果、より安定した温度環境の元で氷表面を観察できるようになった。 一方改良された光学顕微鏡観察により、氷表面の疑似液体層の出現にはある程度の過飽和水蒸気が必要であることが初めてわかった。この成果は氷研究にとって重要でありPNAS誌に採択された(Asakawa et al., PNAS, 2016)。一方でこの成果は、観察面の上下動抑制のため水蒸気量を平衡近傍にすると疑似液体層が出現しないことを意味する。したがって、原子間力顕微鏡で安定に疑似液体層研究を行うには何らかの工夫が必要であるため予定を変更して対応した。 1つの工夫は、周辺ガス種を変えて疑似液体層の出現条件を変える事である。当該年度では塩化水素ガスを混合した場合について調べ、水蒸気量によらず過飽和、平衡、未飽和のいずれの場合でも疑似液体層が出現することがわかった(Nagashima et al., Crystal Growth & Design, 2016)。塩化水素ガスは装置の腐食等の問題があり原子間力顕微鏡用のインキュベータにはまだ導入していないが、対策を取った後に試す予定である。 また、本来の目的であった疑似液体層の厚みも求めることができた。一例を示すと、液滴状疑似液体層の厚みは干渉縞計測により数百nm程度、理論計算より薄膜状疑似液体層の厚みが9±3 nmであることを示した(Murata et al., Physical Review Letters, 2016)。
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