本研究の目的は、「台湾社会変遷基本調査」(TSCS)というデータの分析から、現代台湾における宗教性と利他主義のかかわりを検討することである。最終年度である本年度は、前年度の分析を継続するとともに、計画全体のとりまとめとして成果公表に重点をおいた。 2004年、2009年2時点のデータ分析、および日本との分析結果の比較を行った。台湾の利他主義においては1)寺廟等の伝統宗教施設の機能が相対的に明確なこと、2)内発的宗教性、特に仏教関係の宗教実践との関連が相対的に明確なこと、2)スピリチュアリティ等の新しいタイプの宗教性が、特に世俗的な利他主義と結びついていること、4)以上の諸点は慈済会などの仏教系ボランティア団体への所属を差し引いても見られるものであることなどが確認された。 ただし、上述した宗教性自体には社会経済的地位やエスニシティーによる「階層化」傾向も見られ、回答者の社会的属性が宗教性を介してボランティア活動の参加パターンに影響していることも浮かび上がってきた。この結果は、台湾の宗教性と利他主義を検討する際に「階層性」についての着目が不可欠であるという今後の重要課題の析出につながった。 また台湾におけるTSCSを用いた計量的宗教研究のレビューを行い、台湾における宗教調査の現況と課題、ならびに研究動向について整理することができた。 なお本研究の発展的研究として、1)慈済会所属者のエスニシティと社会階層の変容の分析、2)台湾/日本の宗教と精神的健康の研究、3)台湾の植民地認識の分析、4)宗教と科学的知識に関する研究、5)社会活動に対する宗教効果と地域効果の比較分析、などを行った。 本年度の成果は論文9本(そのうち印刷中3本)、共著の分担執筆1本、学会等発表9本(そのうち発表確定3本)である。
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