研究課題/領域番号 |
25870013
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
福田 大祐 北海道大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (80647181)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 岩質材料 / 数値破壊解析 / 亀裂進展 / 高速破砕制御 / 発破 / 有限要素法(FEM) / 接触処理 |
研究実績の概要 |
一昨年度より、資源開発・土木工学において極めて重要である発破等の高速制御破砕問題を主な研究対象として,動的有限要素法(FEM)に基づいた岩質材料の3次元高速亀裂進展シミュレーターの開発に着手してきている。次項の【現在までの達成度】において別途理由は説明するが,種々の技術的課題が浮き彫りになったため,本年度は以下(1)~(7)に示すように非常に広範囲の改良を加え,着実にシミュレーターの開発を進めた.
(1)計算時間短縮及び将来的な並列化を見据えてリメッシュ機能を搭載した10節点要素によるアプローチから4節点要素を用いたアプローチに変更した.(2)リメッシュアルゴリズムにより亀裂進展を表現するのではなく,すべての4節点要素間に亀裂要素と呼ばれる特殊な要素を導入し,亀裂の開口・滑りを表現可能にした.(3)連立方程式の高速解法であるICCG法に立脚した陰解法ではなく,将来的な並列化のしやすさを見据えて陽解法に変更した.(4)亀裂面の接触処理には,個別要素法(DEM)で用いられる接触ポテンシャル法を用いることで,亀裂生成・進展・連結だけでなく,破砕後の岩片の飛散・衝突まで表現できるようにした.また,これにより,材料試験を模擬する際に載荷Platenを陽に表現可能になった.(5)NBS contact detectionアルゴリズムを採用することにより,任意のN個の破砕岩片の接触をNに比例する計算量で高速検索可能にした.(6)比較的並列化が行い易いOpenMPを開発コードに導入することにより,数倍程度ではあるが計算速度向上を実現した.(7)Hopkinson Pressure Bar(HPB)による剥離現象を利用した動的引張試験や,Split HPBによる動的圧裂引張試験などのモデルを作成し,開発したシミュレータから得られる亀裂パターンがこれら実際の試験で得られる結果と概ね一致した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究目的を達成する上で,上記研究実績の概要で述べた(1)~(7)が必要となった理由を番号を対応させて以下で述べる. (1)10節点要素は4節点要素の場合より大きな寸法を用いても高精度の応力解析が可能であるが,要素数が少なくなると亀裂進展がメッシュのトポロジーに大きく依存し,好ましくなく,簡易な4節点要素を用いたアプローチが必要になった.(2)4節点要素でリメッシュ計算を行うことも検証したが,リメッシュの将来的な並列化は極めて難しいと判断し,わずかに精度は下がるが,すべての4節点要素間に予め亀裂要素を導入することで取り扱いを容易にした.また将来的な並列化が容易になった.(3)陽解法は時間刻み等に極めて敏感であるが,それを考慮すれば将来的にも並列化が容易であり,陽解法に切り変えた.(4)DEMで用いられる接触ポテンシャル法は個別要素同士が衝突する問題用に研究・開発されてきており,その信頼性は高い.また,亀裂生成・進展だけでなく,破砕後の岩片の飛散・衝突まで表現できるようになったため,シミュレーターの適用性は格段に高まった.(5)Kd-treeなどの良く知られた手法による接触検索時間はNlogNに比例することを考えれば,NBSアルゴリズムを採用したことにより高速検索が可能になった.(6)3D計算は演算量の多さが最終的な障壁になることは言うまでもなく,今回並列化が容易なアプローチを採用できたことにより,将来的にさらなる高速化が可能になる.(7)昨年度の上記(1)~(6)を考慮しなかったシミュレーターでは,基礎的な試験解析ですら計算時間が膨大となり,並列化もしづらく,かつ計算が容易に不安定化したが,今回の大幅な改良により,計算速度も向上し,将来的な高速化も比較的に容易に行えるものと考えられる. 以上より,シミュレーターの現在の完成度を考慮すれば研究は概ね順調に進んでいると言える.
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今後の研究の推進方策 |
本年度までの成果により,岩質材料の高速破砕プロセスをある程度現実的に解析可能になったと考えている. 今後は,シミュレーターの(i)チューニングと(ii)高速化に取り組んでいく. (i)に関して,実験室規模の高速破砕試験や一自由面発破のような破砕形態が良く知られている問題を題材として,開発シミュレーターを用いて,これらに特有の破壊機構について分析を行い,シミュレーターの妥当性を検証する.得られた解析結果が,実験結果や経験的知識と調和的である場合,次なるステップとして,トンネル発破・ベンチ発破・放電衝撃圧破砕における破砕機構を,3次元破壊シミュレーターを用いて検証する.さらに,申請書において述べたように,X線CTを用いて空隙分布等の内部構造を取得し,それをシミュレーター用のモデルに反映して解析を行うことにより,さらに高精度な破砕プロセス検証が可能なシミュレーターを目指していく.他方,解析により得られる結果が実験結果と異なる場合,個々の問題に対して,試行錯誤・文献調査によりその問題解決・改良に取り組む. (ii)に関して,(i)の中でも比較的規模の大きな問題の検証を行うためには,計算の高速化が必須である.現在,OpenMPによる簡易的な並列化を行うことで,通常の数倍程度の高速化には成功しており,小(~中)規模程度の問題まで解析可能である.他方,(i)におけるX線CTによる詳細な材料内部構造データを反映した解析や発破による大規模岩盤破砕解析を行う場合,当然のことながら非常に大規模な計算が必要となり,少なくとも現時点のシミュレーターでは,現実的な解析時間で解析を終えることができない.よって,より高度な並列化(例えばGPGPUなどを用いるなど)を行っていく.
なお,(i)の検証は,先行研究でも例がないため,今後は国内外の学会発表や研究成果を論文にまとめていこうと考えている.
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