本年度は,前年度までに基礎を構築した,要素境界分離法に基づく有限要素法(FEM)ベースの岩質材料の3次元複雑き裂進展シミュレーターの精度検証,及び,シミュレーターで用いる各パラメータが解析結果に与える影響等の包括的な評価に取り組んだ.特に,当該分野でこれまで多くの実験結果が報告されている実験室規模の岩石の高速破砕試験を対象として,パラメータスタディー及び思考錯誤的なアプローチを通して,シミュレーターの高精度化に取り組んだ.具体的には,研究対象として,Split Hopkinson Pressure Bar(SHPB)を用いた高速Brazilian試験を研究対象とした.そして,実験的に得られているSHPBの変位速度データを用いて,種々の載荷速度に対応した解析を実施したところ,解析から評価された動的圧裂引張応力の時間変化とその最大値である動的圧裂引張強度に関して,どの載荷速度条件でも実験結果と非常に良く一致する結果を得た.この際,当該シミュレーターにおいて亀裂進展挙動を表現するために導入したインターフェース要素のパラメータ(引張強度,せん断強度,Mode I及びMode IIの破壊エネルギー)を適切に設定することが,実験結果を模擬するためには極めて重要であることを明らかにした.また,近年積極的に適用されてきている個別要素法(DEM)ベースの亀裂進展シミュレーターでは,解析に用いる力学物性値の極めて煩雑なキャリブレーションが必要になることが知られているが,本研究で構築したシミュレーターでは,もともと実験的に評価・計測しやすいパラメータに基づいたモデリングを行っているため,上記のDEMベースのシミュレーターと比較してキャリブレーションが圧倒的に容易に行えることも明らかにした. 以上より,本研究の主目的である岩質材料の3次元複雑き裂進展シミュレーターの構築に成功したと考えている.
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