本課題は,主観的重量感覚と実際の重量との間には誤差があるという仮説の元,「物体の見た目形状と主観的重量感覚との関連性の解明と重量感覚を操作する方法の開発」を研究目的とした.この目的を達成するために,平成25年度から平成26年度にかけて2つの研究課題を実施し研究を進めてきた. 平成25年度には,課題1として「物体の見た目形状と主観的重量感覚との関連性」を実行した.研究内容は物体の見た目形状と主観的重量感覚との定量的な関連性を見出すため,同じ重量の5種類の実物モデルを用いた実験を実施し,①基本図形を対象とした視覚刺激のみの重量感覚,②基本図形を実際に持ち上げさせての重量感覚,③実際の重量という3要素を定量的に比較した. その結果,見た目では球体が最も軽く立方体が最も重く見られたが,実際に実物モデルを持ち上げさせた時は球体が他の曲面形状よりも極めて重く感じられることを明らかにした.これは軽く感じられた見た目の印象と実際に手に取った時の重さとのギャップが影響して,より重く感じたと考えられる. 平成26年度には,課題2として「形状を操作することで主観的重量感覚を変化させる方法の開発」を実施した.課題2では課題1で得た物体の見た目形状と主観的重量感覚との定量的な関連結果を元にして,重量感覚を操作するための形状要素を明らかにした.その結果,物体の輪郭を変えることと,表面形状を変えることで,主観的重量感覚を変化させる可能性を見出すことができた. また課題2を遂行する中で,物体の持ち方に対する制限の設け方,腕の固定・可動の可否,腕の動きに対する能動・受動の差異等によって,主観的重量感覚が異なる可能性について仮説的知見を得ることができた.そこで今後の研究展開として,主観的重量感覚が人の把持移動運動に与える影響を解明し,研究を発展させる計画である.
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