研究課題/領域番号 |
25870021
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
松村 義正 北海道大学, 低温科学研究所, 助教 (70631399)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 海洋物理 / 数値モデル / 粒子追跡法 / フラジルアイス |
研究概要 |
1) 研究代表者が主体となって開発している海洋非静力学モデルkinacoに汎用的なオンライン粒子追跡を実装した。粒子群のデータ構造として連結リストを採用することで大量に粒子を扱う場合にも高い計算効率を持たせる事に成功した。特に衝突・近接判定といった粒子間相互作用や、局所的に存在する粒子群が現場の流速・水塊特性に与える影響の評価を高速に実施する事が可能である。 2) 底層水の起源である高密度陸棚水は沿岸ポリニヤでの活発な海氷生成に伴う塩分排出によって生成される。海況が穏やかな場合には海面で氷板が成長するのに対し、海面が乱流状態の場合には海水中で微小な氷の結晶であるフラジルが析出し、それらが海面で集積してグリースアイスとなる。前者は大気海洋間の熱交換を妨げるが、後者であれば直接海水と冷たい大気が接するため高い熱損失が維持される。しかしこのような海氷形態の違いは既存の海氷モデルではほとんど考慮されていなかった。そこで 1)で開発した粒子追跡法を用いて海水中のフラジルアイスの力学的・熱力学的挙動を陽にシミュレートする数値モデルを構築し、それによりフラジルの振舞いが大気海洋間の熱交換に及ぼす影響を定量的に調べた。また数値実験結果の解析から、活発な海氷生成下で観測されるポテンシャル過冷却(海水の温位が表層での結氷点を下回る現象)が、表層で析出したフラジルが対流により下層に運ばれて融解することで生じる潜熱輸送によって実現されている可能性を指摘した。 3) 数値モデルのテクニカルな高度化として、分散メモリ型の並列化に加えてOpenMPによる共有メモリ環境でのスレッド並列化も実装し、所謂ハイブリッド並列を実現した。さらに今後の多様な高性能計算環境に対応できるよう数値モデルのGPU(nvidia社cuda環境)への移植にも着手し、コア部分の移植は完了した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時には意図していなかった粒子追跡モデルを実装し、その実研究での有効性を確認できた。 近年の海洋のモデリング研究の進展に伴い、モデルで扱えるトレーサーの精度や数に対する需要が高まりつつある。例えば本課題が対象とする底層水形成に関する研究においては、仮想パッシブトレーサーによる色水実験が有効な解析手法の一つとなっているが、生成場所と生成時期を詳細に追跡するには地域・年代別のトレーサーを用意する必要がある。さらに堆積物輸送や生態系モデリングといった様々な応用的研究への適用を視野にいれると、計算負荷や精度の観点から個別のトレーサー毎にオイラー的な格子平均量の時間発展を解く従来の手法は適さない可能性がある。 本研究で開発した粒子追跡モデルはデータ構造やコーディングにおいて高い汎用性と高速性を両立している。これにより本年度実施したフラジルアイスモデルのみにとどまらず、堆積物の巻き上げ・輸送や海面まで浮上した砂泥粒子が海氷に取り込まれる過程等を統一的に扱う事が可能であり、すでに予備的実験によってその有用性を確認している。 本年度に開発した数値モデルコード並びにモデリング手法は、本研究課題及び以後の海洋・海氷系モデリング研究を進める上で大いに活用できると期待され、この点において本研究課題は当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は新規的な粒子追跡スキームの実装とそれによるフラジルアイスモデルを開発したが、シミュレーションは極めて理想化した設定にとどまっている。開発した数値モデルは新生氷の形成、それによる高密度水の生成と大陸斜面上の沈降、さらにその高密度水沈降がもたらす堆積物輸送といった沿岸ポリニヤ域での様々なプロセスを統一的にシミュレートできるポテンシャルを有している。次年度以降により現実的な設定でそのような包括的沿岸ポリニヤ・底層水形成シミュレーションを行う計画である。 また並行して数値モデルのGPUアーキテクチャへの移植を完了させ、多様化する高性能計算機環境への対応・最適化を進める。
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次年度の研究費の使用計画 |
本年度の研究成果をまとめた論文の採録が次年度以降となったため、論文投稿費用として計上していた費用を次年度に繰り越すこととなった。 当該論文は既に投稿済みであり、採録が決定しだい繰越金を出版費用として支出する予定である。 数値モデル結果のデータ保存用ディスク装置購入のため物品費20万円、国内での学会発表及び研究打ち合わせのため旅費25万円、論文出版費用34万円(繰越金約19万円含む)を予定どおり支出する計画である。
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