計画書で予定していた通り、H25年度およびH26年度の成果を踏まえて、L・ウルフとH・ニコルソンの思想の文化論的な側面についての比較検討を行うとともに、関連する文化史的な文脈に関する整理を行った。一つには、大戦間期を中心として、両者の公刊・未公刊の著作を検討した。他方では、同時代のイギリスにおける文化概念の現れ方について、二次文献を中心に検討を行った。具体的には、当時とりわけ影響力のあった『スクルーティニー(Scrutiny)』誌についての事実関係および研究動向を追った他、ウルフと関連の深い『New Statesman』誌や、ニコルソンが関わっていたBBCについても同様の検討を行った。その他、両者と関連する知識人として、リーズ・ミルン(James Lees-Milne)やジェラルド・ハード(Gerald Heard)についても研究動向を追った。 検討の結果、ウルフとニコルソンの文化論には、近さと距離の両方が看て取れた。一方において、前世代の文芸作法を批判するいわゆるモダニスト的な志向は、大枠の部分では両者に共通に見られた。他方、ウルフの場合にそうした傾向が持続していくのに対し、ニコルソンの場合には伝統的な価値観もそこに同居するとともに、むしろそちらへの退行が時間を経るにつれて色濃くなっていく様子がある。この点において、ニコルソンの著作を時評的・実際的とする既存の評価には、近年の修正的評価にも拘わらず一定の理があるように思われる。今後は、これらの知見を踏まえて、両者(とりわけニコルソン)の文化論と政治論とのつながりを検討していく予定でいる(共同研究「「国際関係論」からの解放」で実施予定)。
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