本研究は,「受動疲労」と定義した,走行路面性状に起因する生体疲労の発生・蓄積メカニズムを解明し,生体脈波に着目した生体疲労の非拘束モニタリング結果に基づく,新たな走行路面管理手法の開発を目的としている.平成26年度は,これまでに構築した,路面評価型ドライビングシミュレータ(DS)による仮想道路環境下での走行シナリオを用いて,平坦性および走行時間の観点から,非拘束脈波計測に基づく生体情報により,受動疲労を考慮した路面評価手法について検討した. 生体情報の評価は,疲労をメンタルストレスの蓄積と捉え,自律神経系の活動を表す心拍変動に着目し,局所的な路面損傷に起因するメンタルストレスの評価が可能な副交感神経系高周波成分(HF成分)と,血管運動性の交感神経系活性化に関連したストレス指標である高周波-低周波成分比(LF/HF)を指標として行った. その結果,HF成分のモニタリングから,運転者は,路面性状を原因として一時的にストレス状態となるが,走行体験を重ねるにつれ,次第に車両振動へ順応し,ストレスが弱くなることが確認できた.すなわち,HF成分から得られる情報は,路面に対する短期的なストレスと関係し,乗り心地などの快適性評価に有効であることがわかった.一方,LF/HFのモニタリングから,運転者は,走行体験を重ねるにつれ,路面性状を原因とした車両振動によりストレス状態となることが示唆された.すなわち,LF/HFから得られる情報は,時間変化に依存した長期的なストレスの蓄積と関係し,受動疲労の発現と関わりがあるものといえる.このことから,脈波計測に基づき心拍変動をモニタリングすることで,乗り心地などの快適性に加え,これまで不明であった路面性状由来の疲労を,非拘束・非侵襲に把握でき,ヒューマンファクタに基づく新たな走行路面管理への貢献が期待できることが明らかとなった.
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