研究課題/領域番号 |
25870027
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研究種目 |
若手研究(B)
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研究機関 | 旭川医科大学 |
研究代表者 |
渡部 浩之 旭川医科大学, 医学部, 助教 (90608621)
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研究期間 (年度) |
2013-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 放射線 / 精子 / DNA損傷 |
研究概要 |
マウス雄性生殖細胞は、出生を境に大きく変化する。すなわち、出生までは精巣内の生殖細胞はgonocyteと呼ばれる前精原細胞のステージで休止しており、出生後gonocyteは増殖を開始し、約7日齢には精原細胞に分化する。 これら幼若期マウスの雄性生殖細胞において、放射線感受性が高い時期・低い時期を特定するために、妊娠17日目の胎仔(妊娠17日区)、生後4および11日目の新生仔(生後4日区および生後11日区)の全身に2 Gyのγ線を急照射した。これらのマウスを10週齢まで飼養し精巣重量を測定したところ、妊娠17日区で0.0129 g、生後4日区で0.0778 g、生後11日区で0.0762 gであった。また、生後4日区および生後11日区では精子形成が認められ運動精子が回収できたものの、妊娠17日区では精子形成が認められなかった。これらの結果は、放射線感受性は休止期のgonocyteで非常に高く、出生を境に劇的に変化することを示唆している。 回収された精子の遺伝的安全性を調査するために、卵子内での修復時期の特定と修復量の定量化を試みた。最初に受精卵内でDNA修復に関与することが確認されているトポイソメラーゼIIの動態を確認しようとしたが、免疫組織染色でトポイソメラーゼIIのシグナルを確認できなかった。そこで当初の予定を変更しDNAの二重鎖切断を検出するγH2AXの局在を観察したところ、精子核が脱凝縮する受精後1.5時間目で既にシグナルが観察され、受精後6時間目の前核期においても同様にシグナルが観察された。これらの結果は、受精後の精子核においてプロタミンからヒストンに置き換わる非常に早い時期からDNA二重鎖切断の認識が行われていることを示唆しており、受精卵内での修復量の定量化は受精後1.5時間から可能であることが推察された。現在、ライブセルイメージングのためのmRNAの作製を行い、放射線が照射された精子の遺伝的安全性を調査している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初はDNA修復を検出・定量するためにトポイソメラーゼIIを使用する予定だったが、免疫組織染色では受精卵におけるトポイソメラーゼIIの核内局在を検出することは不可能であった。そのため放射線が照射された精子の遺伝的安全性の調査が若干遅れているが、その間に平成26年度に行う予定だった「精子の受精前遺伝学的診断法」における受精卵作出法および受精卵割球のマルチカラーFISH法の予備検討を実施できた。放射線が照射された精子における遺伝的安全性調査の遅れも、間もなく解消できる見通しであり、総合的には当初の予定通り順調に進行していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に従い、昨年度回収した精子を使用して、「精子の受精前遺伝学的診断法」により異常の有無を調べた精子から受精卵を作出する。異常の重症度が胚発生・胎仔発生におよぼす影響を明らかにし、放射線照射の経世代的影響を調査する。異常の検出にはマルチカラーFISH法を用い、詳細な分析を行う。 昨年度はマウス胎仔および新生仔の全身に2 Gyのγ線を急照射したが、来年度の実験のために同時期のマウスに400 mGy/day のγ線を緩照射(合計 2 Gy)し、10週齢まで飼養後、精子形成の有無を確認する。また精子を回収し、来年度の実験のために凍結保存を行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
実験の進行状況により、昨年度行う予定だった実験と今年度行う予定だった予備検討の順番を入れ替えたため。 今年度請求した助成金と合算し、昨年度行う予定だった実験(放射線が照射された精子の遺伝的安全性の調査)の実施に使用する。
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