生体内水分量は、中枢神経内分泌系・泌尿器系・循環器系など多臓器間での協調作用により、一定の範囲内に保持されている。高地などの低酸素圧環境下では、血中酸素分圧低下に加えて、高山病や脳浮腫等、体液ホメオスタシスに重篤な障害を及ぼすことがある。本研究では、摂取水分量変動や低酸素刺激が生体に及ぼす影響を検討した。マウス代謝ケージを用いて、摂取水分量調節や低酸素刺激前後の体重・摂水量・摂食量および尿量を測定し、実験対照群・摂水制限群・水分負荷群・低酸素刺激群の4群間で比較を行った。摂取水分量調節後、摂水制限群では、実験対照群と比較して体重や尿量が減少する傾向があり、摂食量が有意に減少した。水分負荷群では、摂水量の有意な増加に伴い、尿量も有意に増加した。低酸素刺激群では体重と摂水量および摂食量が有意に減少したが、尿量に有意な変化は認められず、実験対照群と変わらなかった。これらの結果から、低酸素刺激により、視床下部-下垂体軸を中心とした体液ホメオスタシス調節に関与するホルモンの分泌や腎臓での尿濃縮機能に何らかの異常が生じていることが示唆された。本研究課題では、体液調節を行う泌尿器系と酸素を常時多く必要とする中枢神経系がホルモンを介して互いに影響を及ぼす可能性があると考え、低酸素刺激下において両方で発現が増加するホルモンとして、エリスロポイエチン(EPO)に着目している。中枢神経内分泌系では低酸素刺激によりEPO-mRNA発現が強まり、特に神経性下垂体では定常時からEPOおよびEPO受容体-mRNAが持続的に発現していることを確認している。神経性下垂体におけるEPOの作用部位を明らかにするため、免疫組織化学的手法を用いてEPO受容体の発現についても検索した。その結果、神経内分泌細胞軸索終末や後葉細胞が存在する洞様毛細血管間の線維性構造部位に細い繊維状および細かい粒状の陽性反応を認めた。
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